1083話 イタリアの散歩者 第39話


 コーヒーの話 下


イ タリア旅行を終えての帰り道、ちょっとバンコクに立ち寄って、友人と食事をした。昼食をいっしょに食べた友人も、夕食をいっしょに食べた別の友人も、私に同じ質問をした。
 「イタリアで、いちばんうまかったのは、なに?」
 そんなことは考えていなかったのだが、とっさに出た答えが、「マクドナルドのスパイシー・バーガーとアメリカンコーヒー」だったので、「なに、それ、マックが?」と苦笑いされてしまった。
 ウソをついたんでもなければ、笑いを取るための冗談だったわけでもない。今回のイタリア旅行で、もっとマシだったのはマクドナルドのコーヒーだったという話はすでにした。自信を持って「うまかった」とはいえないが、イタリア人好みのコーヒーよりは、アメリカ風の安いコーヒーの方が、私の好みに合ったのは確かだ。
 さて、スパイシ―・バーガーだ。ローマのある夜、夕食が早めで、しかも量が少なかったので、なにか、ちょっと食べたいという腹具合のまま、マクドナルドに入った。宿に帰る前に、すぐ近所のマクドナルドでコーヒーを買って帰るのが日課だったからだ。フライドポテトではない、なにかスナックのようなものはないかとメニューを眺めたら、”Spaicy Burger”という文字が目に入った。”Spicy”という語だけで、心が躍ってしまった。実は、ハンバーグもハンバーガーもあまり好きではないから、めったに食べないのだが、”Spicy”に心を射抜かれた。コーヒーとハンバーガーを持ち帰りにした。
 宿で包みを開いた。イタリアでは普段、コショウ以外のスパイスとは無縁の食生活を送っているから、香辛料が効いたソース味のバーガーを口にすると、たちまち恍惚となる。このソースがどういうものかわからないが、食べた感じでは、マヨネーズにチリペッパーとマスタードが入っているような味だ。カレー粉が少々入っているかもしれない。


 マクドナルドのカフェ・アメリカーノ1.50ユーロ+スパイシー・バーガー1.60ユーロ、計3.10ユーロ(約420円)。
 ハンバーガーを半分ほど食べたところで、予想していなかった歯ごたえがあり、舌を刺激した。インドやメキシコなどでよく食べる青トウガラシのピクルスだ。資料を探したら、こういうのがあった。イタリアのマック限定だろうか。ケチャップがちょっと入っているようだ。
 http://burgerlad.com/2017/09/mcdonalds-spicy-burger.html
 この感動が記憶の奥底に残り、バンコクで「イタリアでいちばんうまかったもの」という質問を受けて、とっさにマクドナルドを思い出したのだが、冷静に考えれば、うまいピザはあったし、ほかにも心に残る料理はある。そのなかで、ベストを選ぶなら、ナポリのニョッキだろうか。1078話でラグーの写真を載せた。この店はナポリ大学のすぐそばにあり、支店の方は大学生向けの安い料金で食べさせる。ある日の夜、本店がすでに閉めてしまったので、支店に行った。ファーストフード店のような内装で、立ち飲みしている学生もいる。その店で、ニョッキのラグー(ミートソース)を食べた。料金は本店の半額。食器がプラスチックに変わっているが、味は多分同じだろう。このニョッキがうまかった。そういえば、あのリゾットもうまかったなあなどと、記憶に残る料理がいくつも浮かぶ。そのいくつかは、いずれ紹介するかもしれない。


 ラグー(トマト味のミートソース)のニョッキ。うまいが、でんぷんばかり食べている感じで、日本人としては、肉よりも魚貝類や野菜など、歯ごたえの違う具のようなものが欲しい。