1096話 イタリアの散歩者 第52話

 E.U.Rに行ってみた 後編


 エウルで行った3番目の博物館は、Museo Nazionale delle Arti e Tradizioni Popolariで、『地球の歩き方』は、原語どおり、民衆芸術伝統博物館と訳しているが、展示の内容を考えて意訳すれば、国立イタリア民俗博物館だろう。これがすばらしかった。2時間以上歩き、立ち止まり、見つめ、楽しんだ。
 1階は「運ぶ道具」のコーナーで、背負い籠、手押し車、牛車、馬車などを展示している。西洋の背負い籠はあまり知らないので、じっくり見た。


 背負い籠のいくつか。日本に竹があることの幸運を想う。

 2階に上がると、イタリア人の仕事がよくわかる展示になっている。例えば、麦作ならば、牛の耕作と鎌での収穫、ロバでの運搬という手の時代の動画から、コンバインや自動車の時代への変化を見せてくれる。昔の時代の記録映像ではなく、再現かもしれないが、それでも充分おもしろい。酪農は動画がなかった。そして漁業や造船業、手作業の道具と作業の動画がある。このあたり、テレビ東京の「和風総本家」だ。
 楽器のコーナーでは展示だけでなく、ボタンを押すとその楽器の音を聞くことができる装置があってありがたい。芸能の展示、カーニバルのような祭事のビデオなど、動画をすべて見た。すばらしい、こういう博物館を探していたのだ。


 箱のボタンを押すと楽器の音が聞こえたり、民俗舞踊のビデオを見たりと、楽しい。


 牧畜の道具。羊の毛を刈るハサミが見える。


 パンをこねているところだったと思う。


 牧畜業の道具、その2.チーズやヨーグルトを作る道具だろう。

 イタリア各州の紹介展示は伝統的な衣装とともに、その州の古い写真があって、なかなかに興味深い。ていねいに見ていくと、古い写真のなかに、日本家屋があった。説明はない。インターネットでも調べがつかなかった。古いこの民俗博物館の静止画はもちろん、動画もあるので興味のある人は飛ばしながらご覧ください。
 https://www.youtube.com/watch?v=HVXHyfqBeVw
 https://www.youtube.com/watch?v=Q_XiVM8mZOU
 この民俗博物館は他を圧倒してすばらしい内容なのだが、ほかの2館同様、大きな問題を抱えている。入館者があまりに少ないのだ。民族学博物館の方は、小学生や高校生の団体が来て、一瞬騒がしくなるが、すぐに静まり、閑散、静寂の空間となる。
美術に興味がないから、イタリアの美術館についてはどうでもいいのだが、博物館はだめだと思っていた。唯一の例外が、この民俗博物館だった。
 ローマのテルミニ駅前にある国立博物館は、ひどい展示の典型のようなものだった。「出土したものは、とにかく並べてみました」というような、倉庫の収蔵品をそのまま展示している感じだ。古代ローマの像や壺をいくら並べてあっても、「数が多けりゃいいってもんじゃないだろ!」と言いたくなる。展示に工夫がなく、基本的に説明はイタリア語だけで、古い時代の博物館そのままだ。
 だから、「イタリアの博物館は、見に行く価値はない」と方針を決めていた。しかし、エウルの博物館は古代ローマとは関係なさそうなので、行ってみたというわけだ。その後、ブラスキ宮の説明に、「中世から近代にいたるローマの歴史と生活を物語る絵画、デザイン、出版物、日用品などを展示している」(『地球の歩き方』)とあるので出かけてみたのだが、我が法則があてはまり、「やはり、ダメ」という結果になった。「地面を掘ったらいろいろ出てきたので、展示しました」というだけの博物館だ。
 それが、イタリアなのだと思った。過去の遺産をただ見せるだけで飯を食う。カラカラ浴場跡にしても、基本的には残骸をそのまま見せているだけで、CGで再現した古代の浴場が見られるような資料館など作る気はないのだ。残骸に囲いを作り、入場料をとるだけなのが、イタリア式商売である。それで客が来るんだから、カネと手間のかかることはしないという方針が見えていて、そういうイタリアにうんざりしたのである。
 エウルの博物館は、さていつまで活動できるだろうか。数年で、全滅するかもしれない。