1111話 イタリアの散歩者 第67話

落穂ひろい
    パニーノと歯、外国料理


パニーノと歯・・・貧乏人が安く生ハムを食べるには、パニーノ(サンドイッチの単数形。複数形はパニーニ)を食べるのはいちばんいい。スペインでも、生ハムを食べたくなったらバールで同じようなサンドイッチを注文していた。イタリアでも同じように、生ハム目当てでパニーノを食べたのだが、2度目か3度目に食べた時に、前歯に違和感があって、それ以後パニーノを食べるのが怖くなった。
 十数年前のことだが、我が前歯2本を折ったのは、大好物の豚足である。ある日、ゆでた豚足にかぶりついて、肉をむしり取りながら食べていた。豚足には小さな骨が多いので、口の中の骨を探り吐き出していたら、その中に歯があり、脚になぜ歯があるのかいぶかしく思っていると前歯に空間があることを舌が確認した。ということは、目の前にあるのは、自分の前歯だ。翌日、すぐさま差し歯にした。それから半年ほどして、差し歯のとなりの歯も、豚足と格闘していて殉死した。こうして前歯2本が差し歯になった。
数年後、そのうち1本が、マレーシアのマラッカで外れた。ケンタッキー・フライド・チキンの骨付き肉を食べていて、ポロリと歯がとれた。悪いことにそれは週末のことで、月曜日に歯医者に行き、見事直した。
それ以後、前歯に異変はないのだが、前歯を無くすと、よけいマヌケ顔(ずら)に見えるし、食べにくい。イタリアで歯を直す手間と費用(保険には入っているが、事後の手続きが面倒だ)を考えて、パニーノをあまり食べなくなった。硬いパンを使ったパニーノを、何も考えずに前歯でかみ切れるのが若さかなあ。


 各種パンに、各種ハムやチーズを挟んだものや、タマゴ焼きやトマト入りなどさまざまある。SUBWAYのサンドイッチのようにパンがフニャフニャなら食べやすいのだが、あいにくああいうパンは好きではない。

外国料理・・・イタリアを旅していて、イタリア料理以外を食べたくなったことが4度ある。1度がトリノの中国料理だったという話はすでに書いた。バーリとベネチアケバブを食べた。ピザ生地のような薄いパンで、焼いた肉と生野菜をたっぷり包んで巻き込んでいるから、野菜を食べたくなるとケバブにする。パンとパスタとピザといったデンプン攻め(責め)の日々を送っていると、デンプンではないものも食べたくなるものだ。
 イタリアで食べた外国料理の4度目は、ローマで食べたインド料理だ。ローマ・テルミニ駅脇のインド・中東料理街のひとつに行った。路上にはアフリカ人があふれているのに、店舗を構えて商売をしているのはインド亜大陸出身か中東の人間で、アフリカ人はカネを払う事しかしない。アフリカ人は商売の訓練を受けていない者が多いし、工夫して商売をするという発想が、アジア人に比べて弱いと思う。アフリカ人は、家族や親戚がカネを出して商売を大きくするといった家族の協力や支えが、中国人やインド人に比べるとかなり薄いような気もする。
そんなことを考えながら、牛肉カレーを食べた。マトンカレーや野菜カレーもあるが、インド亜大陸出身者らしき客の姿はない。この店の会計は、カレー6ユーロ、飯3ユーロ、水1ユーロの計10ユーロ。安くない。多分、インド人は自炊しているのだろう。その方が好みに合うし、安く上がる。カーストの問題もクリアできる。だから、この店の客は北アフリカ人や中東出身者、西洋人観光客たちなのだが、珍しく中国人らしき夫婦がカレーを食べていた。店員との会話で、シンガポールから来たとわかった。シンガポールやマレーシアには、インド料理店が多いから、中国系といえども、インド料理に親しんでいる。飲食店は、こうやって客を観察しているのが楽しい。


 サンドイッチ5ユーロで、このカレーライスが9ユーロでは、パン好きの私としてはコストパフォーマンスが悪いと感じる。