1121話 ダウンジャケット寒中旅行記 第5話

 ジブラルタル海峡を船で

 朝9時に出る船でスペインのタリファに行くことにした。その日のうちにスペインのグラナダに着くには、昼にアルヘシラスを出るグラナダ行きのバスを捕まえなければいけないだろう。バスの時刻表など持っていないから、たんなる想像上の時刻表で、タンジェを出る船を決めた。アルヘシラス行きの船に乗れば、タリファからアルヘシラスに行く手間と時間が節約できるが、アルへシラス行く船はタンジェの街からかなり遠い新港に行かなければならない。それならば、宿から歩いて行ける旧港の方が便利だ。
 ヨーロッパと比べれば物価の安いモロッコで、このフェリー料金はかなり高く感じる。シャワー&トイレ付きかつ朝食付きの新しいホテルの部屋が、1泊250DH(1DHは12.5円)なのに、2時間弱の船旅の料金は、最低のクラスで400DH(約5000円)からである。これは、場合によっては、マドリッドカサブランカLCC料金とあまり変わらない。今は、船もバスも鉄道も、飛行機と比べると高いのだ。
 9時の船に乗るということは、出国手続きなどがあるから、1時間前にはフェリー乗り場に着いておこうと思った。前回モロッコからスペインに船で行った経験から、手続きに結構手間がかかるのはわかっている。宿の1階のレストランで、7時半から朝食をとれることは確認した。朝飯付きの料金だから、たらふく食おうという計算だ。8時前に食べ終われば、8時10分か15分にはフェリー乗り場に着いている。
 そういう計算をしていたというのに、その朝、目が覚めたのは、なんと8時だった。目覚まし時計を7時にセットしたのだが、最後の「ON」のスイッチを入れ忘れたのだ。5分で着替えと洗面と荷作りを済ませて、宿を出た。雨が降ってなくてよかった。荷物を肩にかけて、速足で歩く。前日に、乗り場の確認をしておいてよかった。乗り場を探して港をうろうろしていたら、慌てふためくことになる。
乗り場に着いて、船会社の事務所で乗船引換券を渡して、乗船券をもらう。8時35分。出国手続き窓口のはるか前で待たされる。
 「9時の船だから、急いでいるんですが・・・」と警官に言うと、
 「モロッコじゃ、9時の船は9時には出ないから、大丈夫」とニッコリ笑って説得された。そうだろうとは思っていたが、そうじゃないことがあるかもしれないと心配していたのだ。乗り遅れて、また乗船券を買い直すのは嫌だが、まあなるようになるさと腹をくくる。
 船は9時半に出た。ポケットに残ったモロッコのカネで、コーヒーとパンを買い、まだ札がいくらか残っていたので、コーヒーショップの店員にユーロに変えてもらった。
 ジブラルタル海峡横断(南北移動だから、縦断か?)も2度目で、たちまちスペインに到着したので感動する時間はなかった。船でジブラルタル海峡を渡るなら、アルヘシラス・セウタ間の航路の利用をお勧めする。ただし、セウタはスペイン領だから、当然「モロッコに来た」という感動はない。


 ちゃんと早起きしていれば、食べることができた朝食。これは、前日の撮影。ホテル下の食堂で朝飯。日本円にして350円ほどだが、宿泊客は無料。フランス語とアラビア語のメニューだから、当然フランス語の方をにらんで、想像する。


 白い碗は、麦の甘い粥。パンがモロッコの円いパンと、フランス風の甘いパンの2種ある。カフェオレをやめて、ミントティーにした。


 海岸沿いの道を急ぎ・・・


 港が近くなり、乗船。出発当日は写真なんか撮っている余裕はないから、前日に撮影したもの。


 実際に航行しているのは1時間足らずだから、すぐにスペイン到着。ただし、時差あり。


 タリファに着いて、やっと船を撮る余裕ができた。乗客は数十人、車は10台ほどか。