1123話 ダウンジャケット寒中旅行記 第7話

 メスキータ

 観光地が嫌いなのにコルドバに行ってみようと思ったのは、なぜかメスキータが気になっていたからだ。イベリア半島イスラム教徒によって占領されていた時代の8世紀から10世紀にわたって建築が続けられたモスクで、13世紀にキリスト教徒のレコンキスタ失地回復)により、キリスト教の教会に転用された。イスラム教の礼拝堂masjidをスペイン語ではmezquitaといい、それが英語に入ってmosque、つまりモスクになった。だから、メスキータというのはモスクを表す普通名詞で、コルドバのものは、正確にはCatedral de Santa Maria de Cordoba(発音記号省略)、あるいは簡単にMezquita de Cordobaともいう。
 イスラム教が好きというわけではないが、キリスト教のあらゆる宗教施設には全く興味がないのに、イスラム教の施設だと、時には見に行きたくなることがある。メスキータの写真を見ると、赤い縞が入った石の柱が不思議な魅力を発していた。
 朝、そのメスキータに行った。中に入って、「ああ、これかあ、いいなあ」と眺めていると、「はい、閉館です。午前の部は終了です」と言われた。眠っていたわけではないのに、いつの間にか2時間が過ぎていた。石の建造物を眺め、ちょっと写真を撮っているうちに、たちまち2時間が過ぎていた。薄暗い室内に、明かり窓から光が差し込み、ステンドグラスが浮かび上がる。イベリア半島がふたたびキリスト教徒の世界になると、モスクは教会となった。そういう宗教施設はほかにもいくらでもあるが、こういう折衷ぶりが割と好きだ。それにしても、2時間がこれほど短かったか。
 メスキータはすばらしいのだが、職員の食事のために、長い昼休みにして扉を閉めてしまうという発想はいかがなものか。ベトナムでもこういうシステムがあったが、お役所仕事の傲慢か。