1128話 ダウンジャケット寒中旅行記 第12話

 ピンチョスに再会したのだが

 行ったばかりのスペインにまた行こうと思わせた要因のひとつは、そのピンチョスだった。なんだか翻訳調の日本語になったが、ピンチョスの姿を思い出すと、そそのかされたかのように、「よーし、行くぞ!」という気分になってくる。なかなか行く気にならない国は、こういう発火剤のようなものがないのだ。例えば、「久しぶりにフィリピンに行こうか?」と思いついても、「これがフィリピンの魅力でしょ、ほらほら、行こうぜ」と、私をそそのかすものが浮かばない。そうなると、「今行かなくてもいいか、まあ、そのうちに・・・」と言うことになり、いつまでたってもフィリピンには行かないというわけだ。
 マドリッドに着いてすぐに、前回よく通ったバスク料理店に行った。あのピンチョスを再びと、喜び勇んで行ったのだが、目の前のピンチョスは精彩を欠き、食べてもさほどうまくない。前回と明らかに違うのはただ一点、今回はパンを焼いてある。冬だからなのかわからないのだが、サンドイッチであるボカディージョも、注文すると、「焼きます?」と聞いてくる店もある。焼いたからうまくなくなるなどということは考えられないので、味の違いは気のせいだろう。ということは、前回散々食べたので、感動がないという風に考えるしかない。

 イワシ、赤いのはパプリカ、トルティージャ、エビとトマトのピンチョス

 左から、みじん切りのカニカマのマヨネーズ和えに辛くないトウガラシの酢漬け、真ん中はチーズのサーモン巻き。右がさて何だったか。ベーコンかなあ。ピンチョス3個に飲み物で、日本円にすれば1000円程度だ。
 
 過去に注文して失敗したこと忘れて、また注文してしまったものが2度ある。ひとつは、コルドバで食べたジャガイモと生ハムを炒めた料理だ。前回食べたのは、金属鍋に盛ったフライドポテトに生ハムと生タマゴをのせてオーブンで焼いたもので、基本的には同じような料理だ。塩味だけだから、まずいということはない。ただ、ひたすらジャガイモを食べているのに飽きてしまうのだ。

 ジャガイモは、多分大量の油でゆっくり炒めたものだろう。それに塩味が強い生ハムを入れて、また炒めている。味が単純だから、ビールのつまみに、数人で食べるといった料理だろう。

 マドリッドで豚の顔の炒め物を食べていて、前回もマドリッドでこの料理を注文して、「なんだかなあ・・・」と思ったことを思い出した。豚の顔というのは、沖縄ではチラガーという、「ツラの皮」という意味だ。豚の耳も顔も、軟骨があって大好きなのだが、スペインのチラガーは塩漬けである。塩辛いまま、皮だけをただ炒めた料理だ。タイ人や中国人なら、ニンニクやネギやタマネギや、ニラや生トウガラシなどを入れるだろう。風味と香りと色合いを考えるだろう。日本人なら、料理の上にユズ皮の千切りをのせるかもしれない。そういうひと工夫がほしいと思うのは、私がアジア人だからだろうか。

 ブタの顔皮炒め。かなり塩辛いから、レモンをもらって、薄めて食べた。タマネギとキヌサヤといっしょに炒めたらうまいだろうなあとか、ニンニク&生トウガラシにサンショウ風味とか、いろいろ改善策を考えながら食べた。