1140話 ダウンジャケット寒中旅行記 第24話

 落穂ひろい その4

 デジタルカメラというのは、やたらに明るく撮れてしまう。かつて使っていたフィルム式カメラの場合、コダクローム64かエクタクローム100というフィルムを使っていたから、夕刻が近づくと三脚なしでは撮影できない。タイの芸能を撮影していた時は、感度400のフィルムを増感して使っていた。
 それ以来長らくカメラを持たない旅をしてきて、ほんの数年前にコンパクト・デジタルカメラを買った。ちょっと奮発したのでレンズの開放値はF1.8で、しかもデジタルだから、夜なのにプログラム設定にすれば、手持ちで夜景が撮れる。そして、実際に自分の目で見ている景色よりも明るく撮れている。しかし、明るければそれでいいのかというと、写真がおもしろくない。いつもは、「写真は記録」だと思っているのだが、夕暮れ時に散歩をしていると、柄にもなく黄昏の街を撮ってみたくなる。カメラの説明書をほとんど読まずに使っていて、何も知らずに撮れる写真で充分満足してきたのだが、ヒマな夕刻だから、街灯の下で説明書を開き、まだ1度も使ったことのない「夜景モード」の説明を読みながら撮影してみた。
 その結果わかるのは、きれいな夜景を撮るには、やはり三脚が必要だということだが、「人間2脚」となって、手持ちで3秒のシャッター速度でも、手振れ防止装置がついているから、なんとか撮れてしまう。デジカメはすごいのだが、色調はフィルムの方が好きだ。「今は、そんなもの、いくらでも加工できるよ」と言われるだろうな。


 夕日を受けたアルハンブラを眺めたあとの下り坂。石畳は視覚的には美しいのだが、歩くと疲れる。つまづきやすくなる。

 マドリッドのサン・ミゲル市場は、すっかり観光地になってしまった。もはや、私がひとりでのんびり食事ができる場所ではなくなった。

 マドリッドの路地。

 アルカラ・デ・エナーレスの路地。写真を撮ると、肉眼では見えない青空がまだ残っていることがわかる。

 これもアルカラ・デ・エナーレスの公園の南。もう少し暗くしたいと思って絞りをいじったのだが、うまくいかなかった。