1141話 ダウンジャケット寒中旅行記 第25話(最終話)

 落穂ひろい その5

■前回のスペイン旅行で残念だったことは、旅行中ずっとショルダーバッグに入れていた愛用の水のビンを出国時の空港で廃棄してしまったことだ。なかの水を捨てて、空瓶なら持ち出せたかもしれないと、あとから気がついた。ただし、疑問もあった。前回、マドリッドからリスボンに飛んだときに、「中がからでも、100cc以上の大きなビンは機内持ち込み禁止」と言われて廃棄を命じられたことがあったからだ。いつも荷物はすべて機内持ち込みにしているのだが、今回はからビンをバッグに入れてチェックイン・ラッゲージにして持ち帰った。
帰国前夜、万が一没収された場合に備えて、部屋で写真を撮った。青いビンは無事持ち帰り、この夏に活躍するはずだ。

 「シングルルームは満室だから、悪いけど3日間だけ3人部屋にして」と言われ、広い部屋で過ごした。アップグレードである。その部屋の写真と、愛用の水ボトル。

■前回のスペイン旅行の最後と同じ写真を空港で撮ろうと思ったが、今回のターミナルには適当な店がなく、ごく簡単な食事にした。せっかくユーロを残したのに、使う店がほとんどない。市内の物価基準をしているから、バカ高い空港のレストランで飲み食いする気にはなれないというのが正直な気持ちだ。それにしても、1ユーロが140円はきつい。昨年のイタリア旅行は136円。ユーロが米ドルと同等くらいに安くなってくれると、貧しい日本人旅行者は助かるのだがなあ

 この旅、最後の食事は、マドリッドの空港でサンドイッチになってしまった。この手の硬いパンが好きだから苦にはならないのだが、違うものにしたかったという気もする。

成田空港に着いて、ユーロを日本円に再両替した。「またヨーロッパに行くのだから、両替しなくてもいいか」という気もしたが、次回のユーロ圏旅行がいつになるのか分からないので、再両替することにした。もし次回もヨーロッパ大陸に行くにしても、ユーロ圏ではないような気がするが、もちろん先のことはわからない。
出発時の成田空港で、140円で買ったユーロを、同じ店で128円で売る悲しさ。空港で何か食べようかと思って食堂街を歩いてみたが、食指は動かず。未だ経験をしたことがないほど機内食がまずく、半分以上残してしまった。こんなの初めてだ。そのせいで、かなり腹が減っていたのだが、特に食べたいものはない。地下のコンビニでおにぎりとお茶を買い、電車が出るまでの時間をゆっくり過ごす。「たっぷり旅をした」という満腹感はない。たった今空港に着いたばかりだというのに、旅行者を見ているともっと旅をしたくなった。ああ、旅をしたい。どこかに行きたい。

今回でダウンジャケットを着て旅した物語は終了です。いつも旅物語はどうしても長くなるので、今回は意識的に簡素に書いただけで、つまらない旅だったわけではない。今回も、立ち去りがたいスペインだった。文句を言っていたイタリアも、いつかまた行きたくなってきた。
今回、生まれて初めて寒い国の旅を経験したので(じつは、11月のイギリスを体験している。雪のアムステルダムも知っている。旅行ではなく取材だが、2月のソウルで零下10度を体験しているのだが、まあそれはともかく・・・)、東京の冬程度の寒さなら旅はできるという気もしてきた。いままで熱帯専門旅行者だったが、軽い冬なら旅できそうな気がしてきた。冬の東京を歩けるなら、同じような気候の外国でも歩けるだろう。少なくとも、気温10度のマドリッドなら、気温37度湿度70%の熱帯よりはずっと快適だ。「さて、次はどこへ行くか?」と考えながら、空港を出る電車に乗った。


 旅を終えて、パソコンの壁紙を変えた。スカッと明るい世界を感じたかった。この場所はモロッコのタンジェだから、印象は悪いのだが、それでも数日続いた雨の後の青い空と白壁の家は、旅心を刺激する。パソコンの電源を入れたらこの写真が姿を見せ、「さて、旅物語を書くか」と、ワードの画面を出した。