1150話 桜3月大阪散歩2018 第4回

 ある1日、大正区の散歩から その1

 ある日の朝から夜までの行動を書いてみようかと思った。いつもはテーマ別に書いているが、違うスタイルの文章をちょっと書いてみたくなった。1日の行動を時間の経過とともに書いたものを、世間では「小学生の作文のようだ」といい、だからプロのライターはけっしてそういう文章は書かないのだが、たまには時間の流れを文章にしてもいいかもしれないとふと思った。旅先の、ある日の散歩はこう始まり、こう終わるという紹介でもある。
(きょう、6月18日の朝、大阪で大きな地震があったというニュースを聞きながら、この能天気コラムを更新した)。

 また大正区へ行こうと思った。前回はもう10年ほど前になるか、淀屋橋適塾近くのバス停で路線を調べたら、大正区へ行くバスがここを通るとわかり、そのバスで終点まで行ったことがある。大正区は沖縄からの移民が多いということで有名だが、その時はゆっくり散歩する時間はないが、せめてバスから街を見たいと思ったのだが、車窓からでは沖縄風景は確認できなかった。
 今回は朝から大正区を目指す。時間はたっぷりある。さて、どうやって行こうか地図を見たら、歩いて行けそうな気がしてきた。宿がある環状線新今宮駅の次が今宮、その次は芦原橋、そして大正だから、小一時間で、散歩の出発地である大正駅に着くはずだ。
 いつものように7時前に起きて、やはりいつものように新今宮ホテルのモーニングサービスを食べる。去年よりも少し安くなっているのは、どこかに競争相手ができたからか。去年は、ここで働いていた韓国人スタッフに、韓国の食文化や韓国語のことなどいろいろ教えてもらったのだが、今年はその姿を見かけない。やめたのだろう。今年は中国人が喫茶の担当になっていた。旧釜ヶ崎には喫茶店が少なく、うまい朝飯にありつけないのがこの地区の難点だ。だから、ちょっとましなコーヒーを飲みたいときは、20分ほど歩いて天王寺駅そばのターリーズコーヒーに行くこともある。天王寺まで出れば、喫茶店がいくつかあるが、早朝の営業をしていない。ターリーズは8時からの営業だから、7時をちょっと過ぎて宿を出て、天王寺公園あたりをのんびりと散歩すれば、天王寺に着くころにはターリーズは開店している。宿から西に行くか東に行くかは、朝の気分で決める。


 新今宮ホテルのテラスで朝食。向かいの建物は、この地区のシンボル的建造物である、あいりん労働公共職業安定所

 その日は、新今宮ホテルを出てすぐ西に向かった。難波に至る南海本線高架鉄道をくぐり、大阪の、特に南部では毎度おなじみスーパー玉出の前を通り、歩道橋を渡ると、すぐに今宮駅だ。大阪を舞台にした小説なら、この周辺の描写を1ページはじっくりやる必要がある。ここは野宿を防ぐ金網など特異な風景が目の前に広がっているのだが、長くなるのでここでは書かない。
 〔ちなみに、6月16日のニュースで、玉出は埼玉の企業に売却されたと知った。まったく飾り気のない安売りスーパーで、なんでもとにかく安かった〕


 住宅地にも大きなトランクを引きずる男女がいて、「中国人がなぜここに?」といぶかしく思いながら追い越すと、ふたりはアメリカ英語で会話していた。ここは環状線内側。