1155話 桜3月大阪散歩2018 第9回


 ある1日、大正区の散歩から その6

 コスモスクエアからは地下鉄中央線に乗って次の駅、大阪港駅で降りたら天保山だ。水族館に興味はないが、遅い昼食を天保山で食べることにしよう。天保山マーケットプレースという商業施設は海辺のおしゃれなところかと想像していたのだが、かなり安っぽい土産物街のようで、想像との落差は大きかった。その中の店で、まだ食べたことがなかったキャベツ焼きを食べた。キャベツしか入っていない柔らかいお好み焼きだ。

 左にキャベツ焼き、右に焼きそば。新今宮でモーニングを食べて以来のかなり遅い昼食だ。いかにも大阪という料理を探すと、こうなった。

 右手が天保山山頂。正面に天保山大橋。左に進むとUSJ


 海岸に向かって、露出補正の練習をしてみた。

 港区の天保山から渡し船に乗って此花区への小さな船旅もおもしろいかと思ったのだが、地図をよく見ると、渡った先はUSJなので、私には用がない。さて、どうやって旅を続けるか。

 天保山USJを結ぶ観光船。けっこう高い。

 大阪名物の渡船。橋と同じ扱いだから、乗船無料。「渡船で遊ぶ大阪」という企画がまだ実現できていない。

 天保山(てんぽうざん)は、すでに紹介した昭和山や鶴見新山と同じように人口の山だ。関西のテレビなら、「大阪大登山隊」といったバラエティー番組はすでに作っているだろう。安倍川を浚渫した土砂を積み上げた場所で、かつてはもう少し高かったが地盤沈下で半分の高さになったという、いかにも大阪らしい山だ。標高4.53メートルで、大阪市は「国土地理院認定の日本一低い山」と自画自賛していたが、2014年に仙台に3メートルの山が認定されて第二位になった。かわいそうな大阪よ。仙台の日和山天保山の高さ比べの歴史もおもしろい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E5%92%8C%E5%B1%B1_(%E4%BB%99%E5%8F%B0%E5%B8%82)
 この天保山に登頂したあと、さてどこに行こうか考えた。できれば地下鉄駅には戻りたくなかった。地下鉄は何時間乗ろうが暗闇しか見えないのだから、なるべく乗りたくない。USJに向かう渡し船にも乗らないことにした。ここから歩いて行くのは先が長すぎるので、バスか。バス停を探したら、空港や大阪駅行きがあった。梅田へ一気に行くことにした。
 去年買った『ハンディマップル 大阪詳細便利地図』(昭文社)をバス車内で広げて、走行ルートを追う。建物を確認しながら進むには、時速20キロくらいで走ってくれないと追いつかないが、車窓風景はそれほどおもしろいものではない。
中之島が近くなれば、私にも見慣れた風景が姿を見せてきた。北上して福島方面に向かうのかと思ったら、右折して土佐堀通りに入った。繁華街梅田・曽根崎のすぐ南、大阪市の中心地でありながら、高層マンション街でしかない。ちょっと前にイタリアやスペインを旅してきたので、大通りの両側にマンションだけが建ち並ぶ中心地という大阪の風景に怒りを感じた。ヨーロッパならビルの下層部は商店や飲食店やオフィスで、その上が住宅になっている。だから、ビルが並んでいても華やかで人通りがある。しかし、この土佐堀通りは、高層マンションが並んでいるだけの死んだような街だ。人通りがあまりない。夜は、たぶんゴーストタウンのようになるだろう。ディベロッパーという人たちは建物の収益だけを考えて、街を考えていない。マンションを建てることだけ考えて、街を作る発想がない。大都市の中心部に、商業施設のないマンション街を作るもんじゃない。
 怒りはニュータウンなるものにも及んだ。大阪だけの話ではない。明るい住宅群という絵に描いたようなニュータウンだが、そういう地域に住人は愛着を感じるだろうか。駅裏の飲み屋街の焼き鳥屋やおでん屋、商店街といったものはもはや遺物と考えているのだろう。たしかに、地方都市ではシャッター商店街になってしまったが、活気あふれる商店街はまだいくらでもある。ニュータウンを考える人は、商店街もスーパーマーケットもひとつの商業施設のなかに詰め込むのだが、そういうモノに住民が愛着を感じるだろうか。憩いは、池や林がある公園だけでなく、路地にもあるということがディベロッパーにはわからない。
 夕暮れ時の梅田に着いた。ここで夕食を食べるか。それとも、どうせ歩いてミナミ方面に帰るのだから、その途中のどこかにしようかと考えて、突然ひらめいた。
そうだ、大阪駅前ビルに行こう!!
 噂では聞いていた駅前ビル地下に生まれて初めて足を踏み入れた。そこは、歓喜のカオスだった。新今宮の新世界はよそ者相手のアミューズメントパークで、だから「ケンミンSHOW」好みの場所なのだが、大阪駅前ビル地下は、大阪人のための普通の巨大な飲み屋街だった。地下1階と2階が飲食店街で、地上階がオフィスという巨大雑居ビルだ。第1から第4ビルまであり、1979年に完成した第3ビルは高さ142メートル、34階の高層ビルで、完成時は西日本でもっとも高いビルだった。そして、これが大阪なのだが、この高層ビルの地下にはかつてはゲームセンター街があり、いまでは飲食店街である。東京人にわかりやすく説明すれば、超巨大なニュー新橋ビルが4棟もあるといえば、少しはわかるか。

 駅前ビルの成り立ちは、ニュー新橋ビルと同じで、飲食店が密集する地域を整地して巨大ビルを建て、元の飲食店がビルの地下街に入ったといういきさつがある。
この地下街を歩けば、大阪のどこにでもいるカートを引いた中国人客はいない。女性用ガイドブックである「るるぶ」などでは表立って紹介しないから、外国人だけではなく、日本人のよそ者も多分ほとんどいない。もしいれば、大阪人に案内してもらった人だろう。ここは大阪人のための楽しい場所だ。
 さあ、今夜、ここで何を食べようか。


 さあ、大人の遊園地だ。大阪駅前のいくつものビルの地下1階と2階に、けっして観光名所にはならないこういう楽園が広がっている。