1184話 大学講師物語  その13

 私の旅行史研究 (1)


 このブログ、アジア雑語林の1~275話までの分は、アジア文庫のHPに公開したものだが、それが突然理由もわからず文字化けしてしまった。その件について詳しくは、下記の「お知らせ」を読んでいただきたい。
 アジア文庫分の移設作業をやっていても、275話分の文章は極力読まないようにした。大掃除をしているうちに、出てきた資料や写真や古新聞などを読んでいて作業が遅れるということがあるから、そうならないように記事は読まないことにした。もし気になる個所があって、調べなおすというようなことになったら、この作業が何日かかるかわからない。
 誤字脱字もあるだろうが、それはあまり気にしなかった。アジア文庫分は店主の大野さんが編集長を務めてくれたので、誤字脱字の心配はあまりしていない。今のブログには編集者がいない。旅行人のHPを借りてはいるが、天下のクラマエ編集長の目と手を経て公開しているわけではない。私が書いたら、それで完成という危ない橋を渡っている。うっかり者で数字に弱い私は、編集者のありがたさを痛感している。
274話分の記事は極力読まないようにしたが、もちろん目には入るし、気になるキーワードもある。それで気がついたのは、立教で講師をやるようになってから、以前にも増して旅行史関連の本を数多く買うようになったことだ。
 もともと旅行の歴史には興味はあったが、世間の旅行史研究とはその方向や範囲がまったく重ならなかった。保守本流の旅行史研究というのは、次のようなものだと思う。『人はなぜ旅をするのか』(編集委員 開高健田村隆一長沢和俊日本交通公社、1982〜83)という10巻の本がある。各巻のタイトルと対象とする時代を書き出してみる。
第1巻  馬蹄とどろく“王の道”(紀元前)
第2巻  熱砂と波濤の“絹の道”(1〜9世紀)
第3巻  遥かなる黄金のジパング(10〜14世紀)
第4巻  海の冒険者・陸の思索者(15〜17世紀)
第5巻  太平洋と暗黒大陸へ(18世紀)
第6巻  庶民の旅と学者の旅(1801〜60)
第7巻  19世紀の探検レース(1861〜93)
第8巻  残された空白への挑戦(1894〜1920)
第9巻  陸海空“旅行”の時代(1921〜35)
第10巻  戦争と平和。そして未来(1936〜現代)
 西洋人の常識にならって、アフリカを「暗黒大陸」と書く意識を疑うが、それはともかく、王や政府や軍や企業などに支えられた探検団や旅行団に、私はほとんど興味がない。だから第10巻を買ったのだが、興味を引く部分はわずかしかなかった。
 アジア雑語林の275話分の時代、旅行関連書を多く買っている。私は「若者の旅行史」と、「日本の戦後海外旅行初期」にポイントを合わせて資料を買い集めて読んだ。金持ちの大名旅行やスポンサー付きの冒険・探検旅行というものには、そもそも関心がない。私の興味は、外国旅行が大衆化される初期の事情と、外国をひとりで旅するようになった若者たちの姿だ。そういう資料は昔から読んではいたが、拙著『異国憧憬』(JTB、2003)を書くために調べていた時代に力を入れて読み、そして、講師をやるようになった2005年以降さらに積極的に買い集めた。この手の資料は立教の図書館にもほとんどないので、自分でコツコツ買い集めるしかない。買い集めた資料のことはいつか別の機会に書くことにしよう。
 専門的な話になるが、旅行史の多くはイギリス人のおぼっちゃま旅行であるグランドツアー(おもに18世紀)を前菜に、トーマス・クックの団体から始まる大衆化がメインディッシュ、そしてタイタニック号に象徴される豪華客船の旅がデザートで終わってしまうのだ。戦後の旅行は、「ジャンボ機導入で、航空運賃が一気に安くなり、誰でも海外旅行ができるようになった」と書いて、「おしまい」なのだ。現代を取り上げない。個人旅行をほとんど取り上げない。個人旅行は、観光関連業者にとって利益にならないと思われていたからではないかと思う。
 このあたりのことは、次回に詳しく書く。

〔お知らせ〕
 アジア雑語林の1話から275話までが文字化けしてしまいましたが、諸氏諸兄諸嬢のご尽力ご援助により、現在は元に戻って従来通り読めるようになりました。ご支援、ありがとうございます。
 しかし、また突然文字化けするかもしれないので、その場合の個人的な対処法は、それぞれの機器で「文字化けを直す方法」をとっていただくのがもっとも簡単だと思います。その方法は、アジア雑語林の1174話のコメント欄をご覧ください。そういう作業をしてもうまくいかないという方のために、ちょっとした移設作業をしました。過去の記事を読みたい人は、ブログ右上の「記事一覧」から入って、275話までが入っている2003年とか2004年に入ってください。そこでは文字化けしていない文章を読むことができます。気が向いたら、十数年前のコラムも読んでみてください。