1223話 プラハ 風がハープを奏でるように 32回

 建物を見に行く その3 パネラーク

 

 日本とチェコの団地、あるいは低中層の集合住宅との違いは、チェコでは1階の入り口にドアがあることだ。古い建物でも、木製のドアがついているから、誰でも個人住宅の玄関ドアにたどりつけるわけではない。ただし、北海道の団地画像を見ると、チェコのように1階入り口に戸があるから、日本でも寒い国の仕様としてこういう団地があるようだ。

 ベランダは注意深く見た。ベランダで洗濯物を干すかどうか気になるからだ。プラハのベランダでも、洗濯物が風にたなびいている。ベランダにも透明な戸がついているのは、スペインなどでも見ているが、チェコのように冬が寒い国では効果的だと思う。韓国のマンションは、ベランダの手すり側にもガラス戸があり、冬は部屋として使える。日本でも雪国でやればいいと思うが、建築関連の法律でできないのだろう。日本は融通の利かない国だからな。

 

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 分譲か賃貸かはわからないが、ベランダにアクリル板をはめている例は下の写真でも見かける。「欧米では洗濯物を見える位置には干さない」などという人がいるが、南欧以外でも見かける。

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 駐車場も興味深い。プラハの中心部からトラムで30分以上郊外に出た新興住宅地、ここ数十年の開発地の高層マンションでは、建物と並んで屋外駐車場があるが、「我が家」の近所の低層住宅では、それぞれの家に駐車場にも物置きにもなる小屋が設置されている。おそらく、住宅ができたときには、誰でも自動車が買える時代ではなかったので、建築家は駐車場のことを考えていなかったが、解放の時代に入って、自動車所有者が増えてきて、適当な場所に屋内駐車場兼物置きを設置したのだろう。

 

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 アパートを建てたが、物置きや駐車場を後付けで設置した例。

 以上のようなことは、住宅散歩をしながら想像したことなのだが、帰国してから資料を探すと、『近代チェコ住宅社会史』(森下嘉之、北海道大学出版部、2013)が見つかったが、高い本で、しかも図書館でも見つからない。本屋にあったのでさっと拾い読みしたのだが、じっくり読まないとわからない。

 チェコの建築関連資料はネットにいくらでもあるが、住宅となるとあまりないだろうなと思っていたのだが、ありがたいことにいくつもあり、質も高い。

 もっとも詳しいのは、「チェコ共和国における社会主義時代のプレハブ住宅開発地の住居史集成的再評価化に関する研究」(田中由乃

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/225581/3/dkogk04293.pdf

 比較的短いものでは、同じ研究者による「チェコにおける社会主義のパネル住宅地の地域価値の形成」がある。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jusokenronbun/42/0/42_1419/_pdf/-char/ja

 このふたつの論文があるから、素人の私が何か付け加えることなどないのだが、こういう論文を読むほどの好奇心はないという人のために、簡単な説明と資料紹介をしておこう。

 チェコの集合住宅をパネラーク(panelak)という。日本語に訳すなら、団地、アパート、マンションなどになるから、集合住宅のことなのだが、重要なポイントはpanelだ。工場で作ったコンクリート・パネルを使ったprefabrication、日本語ではプレハブあるいはプレファブ工法で建てた住宅を言うのだが、日本語の「プレハブ住宅」とは違う。低中層住宅もコンクリート・パネルを使う。前回紹介した住宅公団の職員が、団地の研究のためにソビエトに行ったときに、このパネル工法に注目しているが、日本の団地は型枠に生コンを流し込んで建てた。

 次のブログでは、あるパネラークの姿と内部を紹介してくれていて、興味深い。

https://yaahoj2005.exblog.jp/2419981/

  次もパネラークの内部写真がある。

https://www.mlab.ne.jp/columns/report05_20140813/

  共産党政権の住宅復元したのがこれ。トイレの話はいずれするが、チェコも紙は流してはいけない国だったことがわかる。

https://prahalife.exblog.jp/7258725/

 歴史的建造物や、世界的に有名な建築家の作品を鑑賞するよりも、こういう住宅の細部を見ているほうが私は好きだ。

 

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 私が滞在したのは1650年代あたりから開発が始まった地域だが、その外側にこの数十年ほどの間に開発が始まった「新郊外」が遠くに見える。

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 そういう新郊外に行ってみると、ただの高層アパート街が広がり、空疎な雰囲気だ。

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 これも共産党時代のものだろうか。

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 これは明らかに新しい住宅で、グーグルマップの空中写真を見ると、ニュータウンの感じがする広大な新興住宅地だ。トラム9番の終点付近。