1237話 プラハ 風がハープを奏でるように 46回

 建物を見に行く その17 未完になるか

 

 ある日の夕方、地下鉄フロレンツ駅で降りて、かなり離れている宿まで歩いて帰ろうと思って散歩の作戦を立てた。しかし、おもしろそうだと思って選んだコースは、道路工事で通行止めになっていたので、マサリク駅経由の大回りの散歩になった。計画通りいかない行き当たりばったりの散歩は、それはそれで楽しい。

 マサリク駅は2つの通りに出入口があるが、ヒベルンスカ通り(Hybernska)に面した部分は、マドリッドのサン・ミゲル市場のような鉄とガラスの建造物で、私が好きなスタイルだ。時代的には、マサリク駅は19世紀半ば、サン・ミゲル市場は20世紀初めの建築である。

 マサリク駅周辺は何度も歩いているが、裏手を歩くのは初めてだ。広大な地域が、建築工事中を示す黒いフェンスで囲まれている。駅近くまで行くと、フェンスの一部に出土品を展示するショーケースが作ってあり、炎をイメージさせるビルのイラストが貼ってある。こういうビルを建てるという宣言なのだろう。私の好みで言えば、嫌な印象のビルがここに建つということらしい。フェンスの一部が切り取られ、工事用地を見渡せる観覧席が造ってある。そこに立って眺めると、現在工事は土地を深く掘ったところまで来ていることがわかる。

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 工事現場は鉄の塀で囲まれているが、一部に鉄板製の覗き窓、あるいは観覧所が作ってあった。

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 ほー、こうなっているのか。工事が進行している気配はない。右側の2階建ての建物がマサリク駅。写真の奥に山が見える。プラハの郊外に、こんな山があったことは滞在中には気がつかなかった。

 その観覧席の壁の一部が四角く切り取られ、ビデオモニターが埋め込まれている。近隣住民および市民への情報公開に熱心だということがよくわかる。「ビデオ開始」のボタンを押して、画像を見る。どうやら駅の新築とオフィスビルを含めた大規模工事らしいのだが、どう見ても「すばらしい」という感想はでてこない。チェコ語の解説だから、内容はほとんどわからないが、完成の日付けなら数字で出るだろうからわかるだろうと画面を注視していたら、おぞましき人物の顔が画面いっぱいに登場した。そのビルを設計した人物だ。だから、そのビルはうまくいけば(!)、工事がこれ以上進まないかもしれない。

 

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 こういうビルが・・・。

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 全体を見渡すと、こうなるらしく、駅舎の改築になるようだ。

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 その、炎のビルの設計者が、Zaha Hadid。建築家もその作品も、一度見たら忘れない。設計したものの、実際には完成しないことで「未完の女王」と呼ばれる建築家ザハ・ハディドは2016年に亡くなっているから、二重の意味で未完になる可能性がある。

 

 私がこの工事現場で見た動画は、ネットでも見ることができる。これは短縮版だろう。

https://www.tvarchitect.com/video/penta-masarykovo-nadrazi/

 

 今回で建築の話はおしまい。次回からは交通の話を書く。