1250話 プラハ 風がハープを奏でるように 59回

 チェコの食文化 その3 野菜

 

 食堂でメインディッシュを注文すると、その料理にプラスしてデンプンが付く。デンプンは、客の希望に応じて、パンかクネドリーキか、ジャガイモか飯が付く。ジャガイモは揚げたり、ゆでてつぶしたりしたもので、いくつもの料理法がある。飯は、日本のような短粒種のコメを炊いたものだ。長粒種のコメもある。最近のことだろうと思うが、食堂でコメの飯に出会うことが意外に多い。イタリアのように、何も言わなくても籠に入ったパンがテーブルに運ばれてきた体験はない。高級店ではあるのだろうか。

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 クネドリーキは食べたくないので、飯に代えてもらった。

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 別の日に行ったときは、デンプンをパスタにした。やはり、クネドリーキはいやなのだ。この店は、プラハ中心部にあって、安くて有名な店だから、その様子をちょっと紹介しよう。

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 ビルとビルの間のアーケードを入っていくと、この看板がある。

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 営業時間は、10時から3時まで。Menu:の下に書いてあるのは、「スープ、メイン、デザートで109コルナ(約550円)」というセットメニューの案内。矢印に従って、階下に降りる。

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 ビールのメニュー。

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 すると、こういう公務員食堂のような、昔ながらの食堂がある。私をここに案内してくれたのはポルトガル人旅行者。「ここが安くてうまいという情報は、ユーチューブで見たんだ。有益な旅行情報は、ほとんどネットでわかるよ」

 

 メイン料理は肉料理で、牛、豚、家禽類の料理。あるいは、ソーセージやベーコンやハムなどの加工品。肉の煮込みとデンプンという組み合わせが、典型的はチェコの食事だろう。

 野菜も果物も、今ではスーパーマーケットに行くと、「何でもある」といえる。だから、写真を撮らなかった。外国で太ネギに見えるのは、たいていは葉が扁平なリーキ(ポアロネギ)なのだが、プラハのスーパーの野菜売り場で近寄ってよく見ると、緑の部分も丸かった。これはネギだろう。

 どの本だったか忘れてしまったが、共産党時代はバナナがとても高かったという記事を読んだ。30年前なら、果物や野菜の輸入品はほとんどなかったと思う。その時代、韓国でもチェコでも、バナナは高価でなかなか食べられないものだった。共産党時代は、「地産地消がすばらしい」という考えの人には、まことにすばらしい時代だっただろう。輸入品がほとんどないから、すべて国産の生鮮食品だ。物流がうまく機能していなければ、地元の食材を食べるしかない。

 バナナが栽培できない土地で、バナナが安い値段で売られるようになるのが政治と経済の開放だと、バナナが大好きな私は思う。

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 朝飯付きの宿に泊まっていないときは、いつもバナナを用意していた。バナナの値段は、日本と同じくらい。

 

 ヨーロッパの広い地域では、野菜を親の仇のようにくたくたに煮るのはなぜだろうかという疑問が浮かび、ちょっと調べたことがある。すると、ヨーロッパでは近代史のなかに、「消化の良さ」を非常に重要視した時代があり、肉も野菜も徹底的に煮たのだが、それ以前の時代でも、鍋がいつも火にかかっていれば、食材はくたくたになる。私のこの仮説をヨーロッパの食文化を研究している知り合いに話すと、「別の理由もあるんですよ」と、コメントをくれた。「歴史的には、地中海沿岸地域を除けば、ヨーロッパでは生で食べられる野菜なんてそもそもないんですよ。煮込まないと固くて食べられない野菜だから、よく煮込んだということだと思いますよ」。

 そういえば、日本のテレビで、ヨーロッパのどこかの国で日本人がトンカツを作るという番組があって、豚肉もパン粉もキャベツも簡単に手に入るのだが、キャベツが固すぎて生ではとても食べられないといったシーンがあったのを思い出した。

ということは、中世にあった野菜は、キャベツ、ニンジン、タマネギなどで、そのごだいぶ後になってジャガイモが入ってきたのだから、生野菜サラダなどごく最近登場したというわけだ。

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 フードコートのサラダコーナー。1990年代でも、こういう風景はチェコ的ではなかっただろう。

 

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 街のビルの中で見つけたサラダ専門店。ボールに山盛り一杯の生野菜を食べることにした。希望の野菜を選ぶと、なんと、すべてみじん切りにされて・・・・、

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 こういうパスタ・サラダに変身した。日本式に言えば、丼一杯のサラダだから、これで満腹する。109コルナとやや高額なのは、都会のおしゃれな若者の店という感じだからだろう。109コルナなら、先ほど紹介した地下の食堂のセットメニューと同じ金額だから。

 

 酒を飲まない私には、チェコの酒について語るべき話題がない。ビールについては参考文献がいくらでもあるから、そちらを読んでいただきたい。例えば、『ビールと古本のプラハ』(千野栄一白水社、1997)は愛すべき書物だ。こういう本があることは、チェコ人にとっても日本人にとっても、幸せなことだ。

 ビールに関するジョークも載っている。例えば、「既にあまりに有名になったアネクドート(風刺小話)」なのだがとためらいながら紹介したのが、これ。チェコは最高のビール生産国という世評が前提となっている。

 「ロシアの醸造所で、やっと会心のビールができたので、チェコに送って試飲してもらうことになった。それに対してチェコは電報を打ち、『キコクノウマハケンコウデス』」