1262話 プラハ 風がハープを奏でるように 71回

 映画を見る その1

 

 散歩をしていて映画館を見つけたので、ロビーに入って上映中の作品を点検した。チェコ映画を見たいのだが、製作本数はそれほど多くない国だろうから、私の滞在中にうまい具合に見ることができるかどうか不安に感じつつ、上映作品リストを見る。タイトルと出演者の名前がチェコ語らしいと勘が働いた作品を窓口で確認したら、幸運にもチェコの映画だとわかった。朝と夜の2回上映だから、その日の夜の回を見ることにした。願わくば、会話ばかりの法廷映画とか、理屈をこねまわす退屈な文芸作品ではないといいが、アクション映画だと退屈する。どういう内容であれ、滞在中にチェコ映画を見るチャンスに巡り合ったことに感謝する。入場料159コルナ、795円は日本人には安い。真新しいシネマコンプレックスだ。

 “Po čem muži touží” (ポー・チェム・ムジ・トゥジー、2018)という題名で、見終わったあと、かなり英語ができるチェコ人にこのタイトルの意味をたずねたら、「う~ん、難しいなあ」と考えこみ、「大意としては、『この男は何をしたいんだ』という意味かな」と説明してくれた。便利な世の中になったもので、帰国後、この映画の情報はいくらでもネットに上がっていることがわかった。グーグル翻訳をすると、この映画のタイトルは「男性がほしいもの」ほかの翻訳が見つかる。この映画に関するチェコ語情報をパソコン翻訳すると、ほとんど解読不能な文書になってしまうが、まずが予告編を見てもらおうか。

http://www.zkouknito.cz/video_157731_po-cem-muzi-touzi-2018

 多分、この予告編を見ても、内容は把握できないだろう。英語の字幕もないが、わかりやすいコメディーだった。

 遊び人で、仕事をまじめにやらないチェコ版「プレイボーイ」誌の編集長カレルは、離婚して高校生の娘と暮らしているが、自宅に女を連れ込むような男で、仕事の業績も上がらず、解雇された。その夜、占い師に「女になったらどんな気分か・・・」などと言ってしまったからか、翌日、女の体になっている自分に気がつく。そこから、友人や元妻や会社の部下などが登場し、「女とは」を考える。

 会話がいっさいわからないが、なんとかストーリーを追えて、楽しめた。軽妙さが救いだった。

 この映画の情報を引き続き調べると、元はアメリカ映画だとわかった。メル・ギブソンの”What women want”(日本題「ハート・オブ・ウーマン」、2000)の予告編は、これ。この映画のリメイクだったのだ。この英語タイトルをチェコ語に翻訳して、男と女を入れ替えたから、このチェコ映画の英語タイトルは”What man want”。だから、「男がほしいもの」なのか。

https://www.youtube.com/watch?v=VFwHs7fEUNs

 アメリカ版は、体は男のままで女の気持ちがわかるようになるというものだが、チェコ版では体も女に変わるというものだ。これは大林宜彦の「転校生」(1982)以降といっていいのかどうかわからないが、日本でも韓国でもおなじみの手法。心だけ入れ替わるものや、体と心が入れ替わるなどいろいろあるが、私にはもはや手垢がついた手法にしか思えない。

 チェコ版で、ストーリーと直接関係ない話だが、主人公のプレイボーイ誌編集長の愛車が、ヒュンダイ・ハイブリッドだった。フェラーリでなくても、女遊びで問題を起こすようなプレイボーイの愛車が、ヒュンダイじゃないだろう。この車、チェコでいくらするか知らないが、アメリカでは日本円にして250万円程度だ。ということは、スポンサーかと思いクレジットタイトルを注視したが、hyundaiの文字はなかった。言葉がわからない映画は、そういう点に注目して遊んでいる。

 ★ユネスコの資料によれば、チェコの映画製作本数は、世界で25位、2013~15年の資料では年間50本程度制作しているらしい。

https://umikarahajimaru.at.webry.info/201705/article_16.html

 

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