1263話 プラハ 風がハープを奏でるように 72回

 映画を見る その2

 

 帰国して、アマゾンをチェックした。チェコ映画のDVDを安く売っているかどうかのチェックだ。「安く」というのは、内容がまったくわからないで注文するなら安いに越したことはないという判断だ。

 「プラハ」という映画が見つかった。”Praha”(2001)というチェコ映画で、ありがたいことに日本語字幕付きだ。レンタル流れだから、安い。パッケージ写真を見ると、おバカな高校生のお調子者映画という感じがするが、まあい、いいと、注文。

 プラハが舞台というだけでもいいと思い、解説など一切読まずに、すぐさま見た。

 「アメリカン・グラフィティー」のような、卒業直前の高校生と脱走兵のミュージカルで、音楽や踊りから時代設定は1960年代だとわかる。ミュージカルといっても、いわゆるミュージカル映画とは違い、歌の部分は当時のテレビ番組風の演出にしているだけで、登場人物がいきなり歌い踊るわけではない。スタジオ収録風の映像は、「ザ・ヒットパレード」(1959~70 フジテレビ)や「シャボン玉ホリデー」(1961~72 日本テレビ)を思い出させる映像だから、時代設定はすぐにわかった。

 ラストの数分がこの作品の真意を見せてくれる。アメリカ軍放送VOAソビエトを中心とするワルシャワ機構軍がチェコに侵入したと報じている。森のなかの道路を走っている車の前を、戦車が突然現れる。自由を求める者は、国外脱出を企て、国境の兵士も脱出に協力する。1968年8月下旬、「プラハの春」がソビエトなどの戦車で蹴散らされたのだ。おバカな青春が、戦車によって突然終わりを告げられる。そういう映画だ。

https://movies.yahoo.co.jp/movie/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8F%EF%BC%81/324577/

 「チェコ映画」と検索すると、もっとも多くヒットするのは、「コリャ 愛のプラハ」(1996)だが、DVDは高い。単行本『コーリャ 愛のプラハ』(ズデニェック・スヴェラーク、千野栄一訳、集英社、1997)の著者はこの映画の脚本を書いた作家で、この本はほとんど台本である。ノベライズというほどの手間はかけていない。おもしろい小説とは、とても言えない。そういうわけで、映画版にも興味はなく、高いカネを出してDVDを買おうとは思わなかった。

 ところが、予告編だけでも見ようかと“Kolji/Kolya”で検索していたら、この映画がありがたいことに、英語字幕付きで1時間40分の完全版をネットで見ることができるとわかり、さっそく見た。

https://www.youtube.com/watch?v=QmXQdlRURQI

 女たらしのチェロ奏者ロウカは、かつてはチェコフィルでも演奏していたのだが、今は葬式の演奏と、墓石の文字の再塗装作業で糊口をしのいでいる。オーケストラを追われたのは、反政府的活動をした結果パスポートを取り上げられ、海外公演に参加できなくなり、海外公演で稼げない団員に価値はないと判断されたからだと、当人は思っている。

 貧乏生活をしている彼のもとに、偽装結婚の話が持ち込まれ、書類上はロシア人女性と結婚することにして、かなりのカネを受け取った。結婚すると、女は恋人がいる西ドイツに亡命し、プラハには彼女の子供が残された。そして、5歳の少年と初老の男の生活が始まる。

 そして、この映画のラストシーンは、1989年11月のビロード革命だ。まったく偶然だったのだが、「プラハ」はソビエト支配が始まる1968年夏で終わり、「コーリャ」はそのソビエト支配が終わる1989年11月で終わる。

 うん、偶然とはいえ、この映画に出会えてよかった。映画は世評どおり、おもしろかった。少年の物語ということで、イタリア映画の伝統芸を思い浮かべたが、影響があるのかどうかは知らない。

 上にリンクを張ったから、さあ、時間を作って、見る機会があまりないチェコ映画を見てみませんか。