1282話 スケッチ バルト三国+ポーランド 1回

北から南へ

 

 今年も、ちょっと旅をした。

 バルト三国のひとつ、ラトビアの首都リーガから北上し、エストニアのタルトゥ経由で首都タリンに行った。その短い旅で、「バルト三国はそれほどおもしろくはないかもしれない」という予感がして、「それじゃ、よーし、ここタリンからポーランドワルシャワに行ってみようか」と思った。バス料金を調べると41ユーロ。当時、1ユーロ126円だったから、5166円。バス会社の窓口のかわいい社員が、「高齢者割引がありますが、もしかして65歳以上ですか?」と聞かれたので、「はい!」と元気よく返事をしてパスポートを出した。これで、37ユーロ(4662円)になった。15時間の夜行バスで、フィンランドヘルシンキに近いタリンから、一気にワルシャワまで南下する。車窓からバルト三国の風景を見ることができるという利点もあると思ったが、この三国の風景に変化はなかった。牧草と麦畑と松と白樺の林。どこを走っても、風景はそれだけだ。平坦な地域だから、岩山も雪山もない。ときどき見える建物を眺める以外楽しみはない。そういう退屈な風景だとわかっただけでも、バス旅行をした意味はある。私の旅に、無駄などないのだ。

 EU内も、それぞれの国にもちろん国境はあるが、出入国検査はないはずだが、ポーランドは違った。リトアニアからポーランドに入ったところだろうかと思われる深夜、バスは停まり、制服の警官らしき男たちが車内に入って来て、乗客のパスポートをチェックした。荷物も調べているのか、小一時間も停車した。そして、いよいよワルシャワに入ると思われるあたりで再びバスは路肩に停まり、また警官の検査だ。不法移民の検査なのだろうと思ったが、本当の理由はわからない。客のほとんどは中東風の顔つきをした男たちで、どう見ても旅行者ではない。労働者の移動という感じだ。しゃべっている言葉はアラビア語ではなく、耳になじみはない。中央アジアから来た男たちか。

 ワルシャワからリトアニアの首都バリニュスに行き、リーガに戻った。それが、今年の私の旅だ。

 

 バルト三国といえば、北からエストニアラトビアリトアニアで、それぞれの首都は・・・といった情報は、旅行前に読んだ資料で知ってはいたが、自分の知識となるのは旅に出てからだ。一応、それぞれの国の歴史も調べたのだが、さっぱりわからない。あまりに複雑だから、事前学習を放棄して、資料を持って旅に出た。旅先で資料を読むとよくわかる。旅を終えた今も引き続き資料を読んでいるのだが、見切り発車で、旅のスケッチを書き始めようと思う。旅の話は、いつも簡潔に短くしようと思っているのだが、書いているうちに楽しくなってだんだん長くなる。昨年のプラハの旅だって、書き始めたらいつの間にか半年が過ぎていた。隔日更新で半年続けるというのは、書く方は楽しいが、読む方はつき合いきれないに違いない。だから、今年の旅の話は、簡潔にしようと、いつものように決心するのだが、さてどうなるか・・・?

 2018年にプラハに行って、いわばそのスピンオフドラマのように、チェコと同じような歴史を歩んだ国が気になった。それが、ラトビアの首都リーガに行ってみようと思った理由なのだが、問題があった。私の旅は、ここ何年も「1都市でひと月滞在」を目指しているのだが、適当な街がなかなか見つからない。まだ行ったことがない街で、「ひと月居たら、さぞかし楽しいだろうな」と思える街は、メキシコとブラジルとアルゼンチンの都市くらいしか思い浮かばない。

 リーガだって、街の大きさや民族構成や歴史などを考えると、「ひと月遊ぶ」ほどのおもしろさがあるとは思えない。だから、ラトビアのリーガで2週間、ほかの国で3週間という予定を立てた。

 

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リーガを見下ろす