バルト三国は、それぞれ違うのだが
エストニア、ラトビア、リトアニアの三国を簡単に説明しておく。
エストニアの面積は4万5227㎢、人口132万人。ラトビアの面積は6万4559㎢、人口196万人。リトアニアの面積は6万5300㎢、人口285万人。バルト三国の総面積17万5116㎢は、北海道の約2倍という広さ。総人口613万人は、ほぼ千葉県の人口と同じだが、北海道の2倍の広さの土地に、北海道の人口約530万人よりやや多い人が住んでいると考えた方がわかりやすいか。
バルト三国はそれぞれどのような違いがあるのかが常に気になっていたが、ごく短期間の旅ではよくわからなかった。資料を読むと、それぞれの国の歴史に違いがあるのだが、当然ながら私にはその違いがわからなかった。イタリアの、シチリアの都市やナポリやベネチアやミラノの違いを考えれば、現地の言葉がわからない短期旅行者にとっては、バルト三国はイタリアよりも変化が少ないように思える。
エストニア語はフィンランド語系の言語で、ラトビア語とリトアニア語はインド・ヨーロッパ語族に属するのだが、それぞれの言語は互いに理解不能である。ラトビア人に「リトアニア語のアナウンスを聞くと、少しはわかるのか?」と聞いたら、「わかる単語が出てくることはあるが、全体的にはまるでわからない」と言った。
旅行者の耳では、「なんだか、音が違う」という程度にはその差がわかるが、ある言語を聞いて、「それはエストニア語だ」とわかるわけではない。しかし、単語を見ると、わかることがある。どの言語もラテン文字を使っているから、文字は同じなのだが、綴り方や各種記号が違う。
日本語のローマ字表記を例にする。小野と大野は、通常のローマ字表記ではどちらもOnoである。カタカナで書くと、オノとオオノで、そのままローマ字表記すれば、OnoとOonoになる。Oonoのように母音を重ねるのがエストニア語で、ラトビア語ではオーノのように、母音を伸ばす記号をつける。それが日本語の「-」のような横棒(出版用語では音引きという)なのでわかりやすい。ラトビアの首都はRīga で、iのように見える文字に注目してほしい。iの上が点ではなく「-」になっているのがわかるだろうか。これが「イ」を伸ばして「イー」と長母音になる記号だ。だから、発音は「リガ」ではなく「リーガ」となる。つまり、短母音と長母音を使い分けているということで、タイ語も同じような区別があるので、私にはわかりやすい。ちなみに、リーガはエストニア語ではRiiaとなり母音を重ねている。studioという英語をエストニア語風に書くと、stuudioになると看板で知って、いかにもエストニア語だとわかった。やたらに母音が多いと、エストニア語なのだ。
ラトビア語の道路標示。eに伸ばす記号がついている。記号なしのeeがあるが、エストニア語に母音を伸ばす記号はないから、ラトビア語だとわかる。
エストニアのレストラン。ARMEENIA(アルメニア)とGRUUSIA(グルジア)のレストラン
言語表記の違いが少しわかっていたので、バスで旅していると、路肩の表示板を見て、「おお、今、リトアニアからラトビアに入ったな」とわかるのである。その程度のことは、私のような短期旅行者でもわかる。
気になるエストニア語があった。宿の入り口に館内案内板があって、kantor/officeという表示が見えた。kantorという語を初めて見たのはインドネシアで、kantor posで郵便局だ。その次にこの語に出会ったのはオランダで、postkantoorでやはり郵便局のこと。インドネシアは元オランダの植民地だから、オランダから伝わり、インドネシア風に綴りが変わり、修飾語が後ろに来た。オランダ語のkantoorは英訳すればofficeだ。そして、エストニアでまた、kantor。意味は同じだから、同じ語源だろうが、その身元を知りたい。
エストニア語では、kantorだけがわかった。もしかして、kookは英語のcookに関係があるのだろうか。