1304話 スケッチ バルト三国+ポーランド 23回

 ソビエト時代のエストニア展から その3 玄関

 

 この写真を撮ったときにはまだ気がついていなかった。日本人には変ではないからだ。

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 室内履き用に、オレンジ色のビーチサンダルが置いてある。

 

 エストニアのタリンに着いて、宿探しを始めた。スマホを持っていないから、ネット予約も電話予約もできないから、伝統的安宿探し、つまり一軒一軒歩いて探すという方法をとった。足を踏み入れた何軒ものゲストハウスやホステルのカウンター脇などに靴を置く棚があり、「ここで靴を脱いでください」という英語の表示があるのに気がついた。私が泊まることになった宿も同様で、チェックインをすると、「部屋の中で履くスリッパかなにかをお持ちですか?」と聞かれた。私はどこの国に行く時でも、ビーチサンダルをバッグに入れているから、「はい、持ってますよ」と答えた。

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 ゲストハウス入り口。

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  NO SHOES FROM THE POINT ON.PLEASE,AND THANK YOU!  それにしても、大文字と小文字が入り乱れた書き方だなあ。

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 白いカゴにあるスリッパは、以前宿泊した旅行者たちの置き土産。「上履きを持っていない人は自由に使っていいですよ」と、チェックインの時の説明。

 

 家に入るときに履き物を脱ぐのは、日本や韓国のほか、アジアの国には多い。部屋に絨毯を敷き詰めているアジアの国なら、靴を脱いで部屋に入る。敷物を汚さないようにするためというよりも、履き物を脱いで家に入る文化圏は、ベッドではなく床に寝る習慣がある国だ。だから、ベッドを使う中国では、履き物を脱がずに家に入る。

 私の体験では、靴を脱ぐ習慣、正確に言えば、「室内では履き物を履かないか、室内履きに履き替える」ということなのだが、ヨーロッパではエストニアで初めて「履き替える」事実を目にした。アメリカの映画ではよく見るシーンなのだが、靴を履いたままベッドで寝そべる、昼寝をするなんていう光景がある。あるテレビ番組で、日本人と結婚して東京に住むアメリカ人の老人は、日本のマンションでも決して靴を脱がないことを、アメリカ人であり続ける誇りのように守っているというシーンがあった。幕末から明治に日本にやって来たアメリカ人が、寺に神社にも土足のまま入ろうとして、日本人を困らせたというエピソードを読んだことがある。それが日本のスリッパ誕生のきっかけであるといったうんちくも聞いた。

 家の入口で履き替えるというのが宿のルールなのか、エストニアの習慣なのか気になって、宿の若いスタッフに聞いてみた。

 「ウチはもちろん、友達の家でも、親戚の家でも、靴は脱いだり、履き替えます。いままで、靴を履いたまま家に入ったなんてことは一度もありません」

 「エストニアの習慣なんだ」

 「私が確かめたわけじゃありませんが、スカンジナビアも同じ習慣だって聞いたことがありますよ」

 帰国後、インターネットで調べてみると、スカンジナビアやカナダでも、同じ習慣があるらしい。ラトビアリトアニアでは靴を脱ぐかどうかの確認はできなかった。雪が降る国では、濡れた靴のまま家に入ってこられると困るということらしい。床が濡れるし汚れる。絨毯の床ならなおさら、土足は避けたいのだろう。

https://mysuomi.exblog.jp/18966942/

https://woman.mynavi.jp/article/140519-27/

https://shoes-box.net/AI0000108

 オーストラリアの暑い地域では、家で裸足のまま過ごしたり、ビーチサンダルを履いているというのは、テレビの画像で何度も見ている。次の記事を読むと、自宅では靴を脱いでいる人は、日本人が想像するよりも多いようだ。もちろん、同じ国でも人それぞれの考え方によって違いはあるが。

http://sow.blog.jp/archives/1067490183.html

 かつて、「スリッパ」の正体を知りたくて調べたことがある。スリッパはslippersという英語から日本語化したのだが、slip(すべりやすい)から派生し、ひと組だから複数形になっているのだが、slippersはスリッパではない。アメリカの通販サイトで画像検索してするとよくわかるのだが、slippersは「簡単に履いたり脱いだりできる室内履き」のことで、寒い地方なら毛のついたブーツ型のものもある。

 そういうことをまだ知らなかったときに撮影したのが、ソビエト時代のエストニア展で再現された住まいだ。家の入口に日本のような段差はないが、知識のある人が見れば、靴を脱ぐ習慣があるとわかるように作ってある。リアルなのだ。

 

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  これはサンダルと呼べばいいのか、それともスリッパか。こういう履物はイタリアでも見た。必ずしも室内限定の履物ではないだろうが、一応撮影しておいた。タリンのキーク・イン・デ・キョク(防衛と軍備の博物館)の展示品。