1310話 スケッチ バルト三国+ポーランド 29回

 野外建物博物館 その1 行くのが大変

 

 エストニアラトビアリトアニアの3国ともに、野外の建物博物館がある。そこに行くのが、今回の私の旅のハイライトと言ってもいい。私は建築に興味があるが、有名建築家の有名建造物とか世界遺産の建物といったものにはほとんど興味がない。国家の威信をかけた記念碑的建造物とか、国家権力や宗教の威光を知らしめるために作った建造物には、うんざりしている。そうした建造物から人間の虚栄心が見えても、人の匂いがしないからだ。私は生活臭がする建物に興味がある。

 野外博物館の展示は、近世から近代、16世紀あたりから19世紀あたりの住宅を移築、あるいは復元したものらしい。3か国の建築博物館すべてに行こうと思い、実際に行ったのだが、ちょっと手間取った。広大な野外博物館なので郊外にあり、考えていたよりも行くのが大変だった。まずは、その話からする。

 エストニア野外博物館へは、エストニア駅前が始発のバス停に乗ればいいからわかりやすいのだが、便数が少ない。1時間に1本か2本程度だから、行きも帰りも待たされる覚悟はしておく必要がある。しかし、バスにさえ乗れば、下車したバス停のすぐ前に博物館があるから、便利だ。

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 エストニア野外博物館入り口。前回紹介した男女共用トイレは、この事務棟の中にある。エストニア語の国名はEESTI。英語のEASTと同じ「東の方」という意味。形容詞や名詞がくっついて、単語が長くなるのはフィンランド語と同じ。VABAOHU(野外)のMUUSEUM。

 

 ラトビアリトアニアの野外博物館は、少なからぬトラブルがあった。最新版『地球の歩き方 バルトの国々』(2019年6月5日発売)によれば、ラトビア民族野外博物館へは「1番のバスか6番のトラムで」となっている。リーガを毎日散歩していたが、6番のトラムを見た記憶がない。地図でも路線が見つからない。生まれも育ちもリーガだという人に聞くと、「6番? 昔は駅前通りを走っていたけど、とっくに廃止されたと思うけどなあ・・・」と言うことだった。念のため、トラムの停留所で路線図を確認すると、現在運行しているトラムは、1,2,3,5,7,9,10,11の8路線だとわかった。やはり、6番のトラムなんてないのだ。ガイドブックの取材スタッフは何年もチェックしなかったようだ。

 トラムをあきらめ、1番のバスが走っている道路までかなり歩き、目的の停留所を見つけたものの、停留所に着く直前に出たバスが、目的の博物館方面に行くバスだったから、路上で小一時間ほど時間をつぶすことになった。のちにわかったのは、トラムなら1番か3番を使い、終点でバスに乗り換えると、博物館まで2キロほどだ。私はバスだけを使い、宿を出てから2時間後くらいで目的地に着いた。かなり早めに宿を出たから、それでも開館前だった。開館時刻直前に観光バスが入口付近に停まり、バスを降りてきた観光客にガイドが、「足元に気を付けてください」と日本語で叫んでいた。30人以上の老人団体だった。

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 ラトビアの野外博物館の大きな建物。小屋組み(こやぐみ。屋根の骨組み)は、日本では皿の形、西洋ではV字だと思っていたが、この小屋組みは日本と同じなので、写真に撮った。こういうことを調べ始めるとキリがないので、調べない。

https://iekoma.com/yane-glossary/ka/%E5%B0%8F%E5%B1%8B%E7%B5%84/

 

 リトアニア民俗生活博物館はもっとややこしい。この博物館は首都ビリニュスではなく、首都からバスで1時間30分から2時間ほど離れたカウナスにある。ビリニュスから日帰りする予定なので、朝早いバスでビリニュスを出て、カウナス駅前からミニバスに乗り換えて着いたところは住宅地だった。バスに乗った時、「博物館に行く」と伝えておいたので、運転手が「ここだ」という。「博物館は?」と運転手に聞くと、はるか遠方を指差した。その方向に博物館らしき姿はまるで見えない。私に「博物館に行くの?」と声をかけてきたのは、私のあとからバスを降りた男で、「ええ」と返事をしたら、「乗っていきなよ。そっちに行くから」と迎えに来た車を指差した。バス停から歩いていくには遠いのだ。

 そうやって、やっと博物館に着いた。心配だから、帰りのバス便のスケジュールを調べた。1時間か2時間に1本しかない。

 さて、帰路だ。博物館からバス停に向かって歩いたのだが、遠い。『地球の歩き方』には「約8分」と書いてあるが、とんでもない。少なくともその倍以上かかる。バス停は広い道路にはなく、住宅地のなかにあるから、わかりにくい。何人かに聞くと「バス停なんて、知らない」とか「ここから4キロくらい先かな」などという。今朝の記憶を呼び起こして、やっとバス停にたどり着いて時刻表を見たら、博物館の受付で見せてもらった時刻表とは違った。ああ。というわけで、1時間ほどバスを待った。『地球の歩き方』の情報だけでは、あの博物館にはなかなかたどり着けない。あるいは、その日に首都に帰れない。

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 リトアニアの野外博物館のログハウス。ここは中に入れなかった。

 

 ついでだから、『地球の歩き方』最新版の誤情報を書いておこう。エストニアのタリンで宿探しをした。満室というところが多く、なかなか探せないなか、地図に『地球の歩き方』で紹介している宿がある道路に出た。Uusという通りに、オールドハウス・ホステルとオールド・タウン・バックパッカーズという宿があるとガイドブックに載っている。どの程度の宿かチェックしてみようしたら、オールドハウス・ホステルという宿はなく、オールド・タウンの方は、なんと廃屋同然だった。最新版のガイドブックで紹介している安宿3軒のうち2軒は存在しないのだ。私が泊まっていた宿の従業員が、偶然にもオールドハウス・ホステルの元スタッフだったというので、事情を聞いた。

 「もうだいぶ前に、オーナーがあのホステルを売ったのよ。それで、いまはリノベーションをして、名前も変わって、別のホステルになったというわけ」

 『地球の歩き方』は再取材をしないまま、2019年6月5日改訂版12版の「最新版」を出版したというわけだ。

 

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 エストニアの野外博物館は、昔の街の一部を再現しているが、客が少ないとゴーストタウンのように見える。