野外建物博物館 その2 サウナ
バルト三国それぞれの野外建物博物館の基本姿勢はよく似ている。ほとんどの建物は木造住宅で、住宅以外では教会や学校もあるが、それらも木造だ。木造建造物に関する考察はあとでじっくりやることにする。
エストニアの野外博物館は広大な敷地にぽつんぽつんと家があり、その全体図が子供の落書きのような地図しかないので、迷う。私が行ったその日は、雨が降るなか広大な敷地を延々と歩かされることになった。歩くのはいいが、迷って同じところを何度も歩くのは嫌だ。ラトビアの野外博物館の敷地は広いがコンパクトにまとめてあり、よくできた地図もあり、英語の説明板もあって、総合点ではもっともよかった。
どの建物博物館も、時代や地域によって「こういう違いがあります」と変化をつけて展示しているが、国内地理を理解していない私には、「〇〇地方の住居」という説明があっても、それが海岸地方なのか、内陸部かといったこともわからない。ガイド付きで歩きたいと思ったが、それは不可能だ。せめてイヤフォンサービスかガイドブックが欲しかった。専門的な話が聞けるなら、まる1日いても飽きない。
野外博物館は、林や平原のなかにぽつりぽつりと家がある。住宅のいくつかは、家庭菜園が作ってあったり、窓辺に花が飾ってあったりする。それぞれの家に管理人がいて、世話しているらしい。だから、バルトの人々には、田舎に住んでいるおばあちゃんの家に行くという感覚になるだろう。実際には、誰かの家に勝手に入ることなど許されないのに、この博物館では誰かが住んでいそうな家に入って、どの部屋も覗ける。移築の場合は、家具もそのまま持ってきたので、より生活感がある。
雪深い土地ではないが、屋根が大きく傾斜がきつい。エストニア。
どの家にもトイレがないという話はすでにした。浴室はどうかというと、興味深いことに、エストニアとラトビアではサウナがあった。家の中にサウナ室と思われる空間がありそうだと思われることもあったが、解説者がいない家だと想像するしかない。説明板があってはっきりわかったサウナは、母屋から離れて独立した小屋になっている家が何軒かあった。そうした家で、英語ができる管理人に出会えたので、「サウナがなぜ、別棟なんですか」と聞いたら、「火事が心配だからです」と答えたのだが、台所は母屋にあり、当然薪を使った暖房設備もあるのだから、「火事が心配で」という説は納得できない。この辺は深く調べてみる必要がある。
リトアニアの建築博物館ではサウナのある家は見つからなかった。たまたまなかったのか、私が気がつかなかっただけかもしれないが、リトアニアに今もサウナがあることは各種資料でわかっている。西洋の風呂関連資料は買い集めているが、ここで深入りするとますます長くなるので、深追いはしない。
ラトビアの野外博物館に入ってすぐの屋敷。敷地にこんな小屋があり、物置かと思ったら・・・。
サウナだった。
別の屋敷にもサウナを発見。
台所にあった大きな樽は、小判型という形から考えると、水槽ではなく浴槽ではないかと想像するのだが、わからない。説明板も説明員もいないと、わからないことが多い。これも、ラトビア。
敷地の一角に、丸太の小屋を見つけた。細い丸太を立てて円錐形にしたもので、ラップランドのサーミ人の小屋であるコタや、アメリカ先住民(インディアン)の住居ティピーを連想させるが、丸太の外側を布などで覆ってはいない。「おっ、トイレか!」と思い内部を覗いたら、焚火のあとがあり、石も置いてある。たぶん、炉だと思った。台所はちゃんとあるのだから、「何の目的で?」と、その家の管理者にきいた。
「あれは、夏の台所なんです。家の中で火を使うとけむいし、夏は暑いでしょ。それに、家の中は暗いから、冬以外はできるだけ明るい外で炊事をしたいんです」
家は、寒い冬や雨の日はありがたいシェルターだが、狭苦しく、暗く、臭い。天井が低く、窓はあるが窓ガラスは金持ちの家にしかないという時代なら、昼間の生活はできるだけ戸外で過ごしたいと思うのは当然だ。
こういう建物を実際に見るとは初めてなので、「なんだ、これ?」
なかに入ると炉があった。夏用台所なら、こういうたいそうな建物にしないで、簡単な小屋掛けでいいと思うのだが、それでは春や秋には寒く、風が防げないということか。ベンチがあることを考えると、ここで食事もするのかもしれない。
スウェーデンの建築の本にも、こういう夏用台所が紹介してあった。