1339話 スケッチ バルト三国+ポーランド 58回

 食べる話 その7 非ヨーロッパ料理

 

 チェコプラハと比べると、バルト三国の首都もワルシャワも、外国料理店の数は圧倒的に少ない。プラハでは手軽に安く食べられたピザとケバブの店が、バルト+ポーランドでは目立たないのだ。ベトナム料理店や中国料理店はあるが、「ある」というだけで、よく見かけるわけではない。ショッピングセンターのフードコートも、基本的にはヨーロッパ料理ばかりだ。それがいいとか、悪いとか批評しているのではなく、そういう現実、あくまでも散歩をしていて感じた印象を書いているに過ぎない。

 今回の旅で最初に口にした非ヨーロッパ料理は、リーガの市場で営業していたウズベキスタン料理店だ。ウズベキスタン料理に関する知識は皆無に近いが、店のガラスに麺料理のカラー写真が張り付けてあり、それが中央アジアの麺料理ラグマンだということはすぐにわかった。小麦粉を原料にした手延べ麺で、牛か羊のスープを使う。

 私は中央アジアに足を踏み入れたことはないから、ラグマンを食べたことはないが、その麺料理についてはもう何十年も前から知っている。中央アジアに行く予定はないから、ラグマンを食べる機会はないだろうなと思っていたら、ラトビアで出会ったというわけだ。よし、この機会に食べてみようと考えた。食べた。予想したよりもうまかった。翌日、ピラフも食べた。これもうまかった。来年はウズベキスタンに行ってみようかなどと考え始めた。帰国後、資料を調べると、前田敦子主演の映画が話題になっているようで、私が今ウズベキスタンに行くと、前田敦子ファンだと誤解されないかなどと意味もなく躊躇した。

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 この写真を見て以来、非ヨーロッパ料理が気になった。リーガ市場の場外にウズベキスタン料理店があった。”Lagman”の下の文字はキリル文字のウズベキ語。1992年以降、ラテン文字が採用されたから、これは古い表記となる。

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 延べ麺のラグマン。これは汁そばだが、この店にはないが焼きそばにもする。ラグマンに関しては、『文化麺類学ことはじめ』(石毛直道講談社文庫、1995)に詳しい。

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 ウズベキ語では、Uzbeku plovs、英語表記でUzbek pilafと説明されているピラフ。これもうまい。私の好みではトウガラシをたっぷりかけたいが・・・。


 エストニアのタルトゥでジョージアグルジア)料理店に行った。小籠包のようなものはネパールでモモの名で知っているから驚きはないし多少の知識もあるから、現物を目の前にするのは初めてだった。「これは、どうも、苦手だなあ」と思っていた通りだ。台湾でこういう料理を食べるなら、中国茶を片手にカラシ醤油で食べるのだが、中央アジアではヨーグルトをつけて食べる。ヨーグルトは好きなのだが、こういう料理にヨーグルトを合わせたくない。そうは思うが、一種のショック療法として、中央アジアや東ヨーロッパなどで、チーズとヨーグルト漬けの日々を過ごすのも悪くないとも思った。

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 タルトゥのアルメニアジョージアレストランで。左は鮭のスープ、右がヒンカリ(Khinkali  肉まん)。

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  ヒンカリの肉は、牛豚の合い挽きを使うことが多いそうだ。写真右上のヨーグルトをかけて食べるのだが、私としてはカラシ醤油だな、やはり。「小籠包」と解説している人が多いが、肉汁たっぷりというわけではない。ちなみに、この料理、ウズベキスタンではMantiという。中国語の饅頭(マントウ)から来た語だろうが、ヒンカリの語源はわからない。

 

 ワルシャワでは、アジア料理店でタイ料理を食べた話はすでに書いた。ベトナム料理店にも行ってみた。あまりうまくないので、「ニョクマムをください」と言ったら、「ありません。ポーランド人があの匂いを嫌うから」と店主が言った。

 この話を宿で出会ったベトナムチェコ人に話すと、「チョコのベトナム料理店では、ニョクマムを使うのがベトナム人の店。使わないのが中国人の店という違いがあるんですよ」と言ったが、その真偽はわからない。そういえば、タイの小説『タイからの手紙』だったと思うが、中国移民はタイのナムプラーを嫌っているというくだりがあったのを思い出した。

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 箸はあるが、ニョクマムなし。やはり、ベトナムにいかなくちゃ。

 

 ワルシャワの駅の近くにアジア料理店が集まっている一角があって、ベトナム料理を食べた翌日隣りの店でインド料理を食べた。辛い料理を食べたかったから、「辛くして」と注文したら、本当に辛かった。食べられる限度ギリギリの辛さだったが、量が多くて食べきれない。残したら、「やっぱり、辛すぎましたか?」と店員がいう。「辛いだけで、うまさがないんだ」とは言わないでおいた。

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  Chicken Vindaloo 27ズロチ(770円)と飯6ズロチ(170円)。ビンダルーはゴアで生まれたポルトガル系インド料理。量はふたり分あるから、全部は食えない。