落穂ひろい その2
■民族と国籍・・・エストニアの首都ビリニュスの一角にウジュピス共和国がある。バチカンのような独立国ではなく、いっとき日本ではやった「○○王国」とか「○○村」といったようなものだ。あのあたりは元々は治安が悪い地区だったが、家賃が安いから芸術家が移り住むようになり、「芸術の国」ごっこをしようということらしい。
日本では「王国」を使いたがるのに、ここは「共和国」というのがいい。ここの感じは、美大の校内だ。
その辺でスケッチをしている若者も多い。市の中心地近くだが、この風景だけを切り取ると、山村のように見える。
国にふさわしく、憲法がある。憲法は世界の様々な言語に翻訳され、金属プレートに印刷されて壁に貼り付けてある。言語チェックという点でも、興味深い。憲法の日本語訳からいくつかを買いだしてみよう。
第2条 誰にもお湯と冬には暖房と瓦の屋根を有する権利がある。
第3条 誰にも死を選ぶ権利があるが、決して義務ではない。
第6条 誰にも人を愛する権利がある。
第7条 誰にも愛されない権利はあるが、これは必須ではない。
第8条 誰にも平凡に生き、知られない権利がある。
このあと、猫を愛せ、犬を愛せといった条文が続くのでうんざりするのだが、「これはなんだ!」と思ったのはこれだ。
第25条 誰にもどの民族でいる権利がある。
「誰でも自由に自分が属する民族をきめていい」という内容のようだが、なんだかすっきりしない。英語訳ではどうなっているか調べてみたら、こうだ。
“Everyone has the right to be of any nationality.”
「国籍なんか、自由に選んでいいんだ」というならわかるが、日本語訳の「民族」はひっかかる。中国語訳でその部分を見ると、「何国籍的人」になっている。それで気がついたのだが、これは台湾式の繁体字だ。中国式の簡体字ではない。簡体字のプレートはあるかと探してみたが、ない。「中国には自由を選ぶ権利はないから、簡体字はいらない」と考えたのか。まあ、違うと思うがね。
韓国語訳ではその部分をどう書いてあるか見てみると、「クッチョク」で、漢字にすれば国籍だ。
だから、日本語訳でなぜ「民族」にしたのかわからない。
さまざまな言語に翻訳された共和国憲法のプレートが壁に掲げてある。
鏡面加工の金属プレートだから、写真撮影が難しい。
日本語訳憲法。各条文を読みたい方は、拡大してください。
■国籍判断・・・リーガの名所に「三人兄弟」というのがある。15世紀と17世紀の建物が三つ並んでいる。ここに来て、建物よりも面白かったのは、路上楽士だ。曜日や時間で決まっているのかもしれないが、何人かが交代で営業している。この建物を見に来る観光客相手に演奏するのだが、韓国人の団体だと「アリラン」をやる。ドイツ人の団体なら「リリー・マルレーン」をやるといった具合だ。楽士はどうやって客の国籍を判断しているのだろうかという好奇心が沸き起こり、客がいなくなってから、「どうやって、客の国籍を判断しているの?」と聞いてみた。
「それは・・・、企業秘密さ」といって、にっこり笑った。
多分、こうだ。団体客を連れてくるガイドを覚えている。あのガイドなら、ドイツ語だとわかれば、ドイツ人が喜び、チップをはずんでくれそうな曲を演奏する。国籍がさまざまな個人客が多い場合は、有名な曲を演奏するというのが、「企業秘密」だろうと推察している。
「リーガの三兄弟」と呼ばれる建築物。右が長男で15世紀のもの。リーガでもっとも古い住宅。建築当時、「窓税」というのがあったので、設計上の窓よりも、実際の窓は小さい。中央が17世紀に建てられた次男。窓税がなくなり、窓が大きくなった。資料によれば、マニエリスム(後期イタリア・ルネッサンス様式)だそうだが、私にはなんにもわからない。左の三男は17世紀末のバロック様式。
この日は路上の歌手が客を待っていたが、日によって管楽器主体のいくつものグループが「長男宅」前で営業している。