1357話 音楽映画の話を、ちょっとしようか 第1回

 スター誕生

 

 今年も、音楽評論家の松村洋さんと雑談会をやった。年に一回、どこかで会って雑談をしましょうという企画を始めて、たぶんもう10年以上たつと思う。ふたりだけの雑談会だから、特定のテーマが決まっているわけではないのだが、せっかく音楽の専門家に会えるのならばと、いつの間にか私が音楽関連の疑問や意見を口にして、専門家からの話を聞くという構成になった。

 今年は私の希望で音楽映画の話から始めた。あらかじめお断りしておくが、この先、数多くの映画がこのコラムに登場する。それぞれの映画の紹介や批評などを書いていたらいくらでも長くなってしまう。だから、気になる映画があったら、各自検索してください。

 ちょっと前に、wowowで音楽映画をまとめて見た。3本は「スター誕生」だ。原題を”A star is born”という映画は、いままで4回制作されている。

 第1作は「スタア誕生」(1937年)、俳優をめざす若い女ジャネット・ゲイナー)は、大スター(フレドリック・マーチ)と出会い結婚し、スターへの栄光の道を歩み始めるが、夫は酒で身を持ち崩し、破滅へと進んでいくというのが大筋で、これも実は「栄光のハリウッド」(1932年)を下敷きにしている。この2作のことはまったく知らない。私が知っているのは、第2作目からだが、どれも見たことはなかった。

 第2作は、「スタア誕生」(1954年)。歌手志望の若い女が、ジュディー・ガーランド、ハリウッドの大スターがジェームズ・メイスン。ジュディー・ガーランド主演の「オズの魔法使」(1939年)は好きな映画で、その主題歌「オーバー・ザ・レインボー」(虹の彼方に)も大好きな歌だ。ついでに言うと、とりわけすばらしいのはハワイのイズラエル・カマカビボオレ(Israel “IZ” Kamakawiwo’ole)のものだ。下の動画には、葬儀のもようも入っている。

https://www.youtube.com/watch?v=V1bFr2SWP1I

 さて、1954年の「スタア誕生」なのだが、「なんだか、つまんねえなあ」という印象が最初からあり、40分で放棄した。映画では、破滅の道を進むのは夫なのだが、現実には大スタージュディー・ガーランド自身が以後、破滅への道を進む。

第3作は、「スター誕生」(1976年)。歌手志望の女は、バーブラ・ストライサンド。売れっ子歌手役がクリス・クリストファーソン。野外の大ロックコンサートで歌うような歌と、バーブラのミュージカル歌手の歌唱法がなじめず、一応最後まで見たが、「なんだかなあ」という印象だった。

 第3作は、英語の原題はそのままだが、日本では「アリー/スター誕生」(2018年)となっている。歌手志望のウエイトレスがレディー・ガガ、売れっ子歌手がジャクソン・メイン(監督・脚本も)が演じている。ながらく、レディー・ガガには関心はなく、だから知識もまったくなく、ただ名前を知っているだけだったのだが、2014年だったか、グラミー賞授賞式のステージパフォーマンスで、トニー・ベネットとデュエットでジャズを歌い、そのうまさにびっくりして、ついに二人のCD「チーク・トゥ・チーク」を買うことになった。

 そういう関心で、「アリー/スター誕生」を見た。レディー・ガガはいい。しかし、映画そのものに、「こいつはすごいぞ!」という魅力はない。映画を見終わって、しばらく座席を立つ気になれないとか、この感動を誰かに伝えたいとか、この監督の、この俳優の作品をもっと見たいといった感動の余波がないのだ。

 松村さんには、もう1本、感動しなかった音楽映画の話をした。