1359話 音楽映画の話を、ちょっとしようか 第3回

 ブルース・ブラザース

 

 音楽評論家の松村洋さんに、「最高の音楽映画は?」と聞いてみた。

 松村さんは1秒も考えずに、ポツリと「ブルース・ブラザースはどう?」と言った。あまりにあっさりと言ったのだが、それで正解が出てしまった。そうなんだ。我が最高の音楽映画と言ったら、「ブルース・ブラザース」が圧倒的な首位なのだ。ふだんから 「好きな音楽映画」のランキングをつけていたわけではないが、この映画の名が最初に出てきてしまった。

 「『ブルース・ブラザース』が公開された1980年、ニューヨークで見たんだよ」と、思い出話をちょっとした。

 1980年のアメリカで、公開されたばかりの音楽映画を3本見た。

映画館の前を通りかかったときにポスターを見て、ふらふらと入った。まったく知らない映画だ。音楽学校を舞台にした「フェイム」だった。その音楽学校は私が入った映画館のすぐ近くにあり、我が安宿にも近いからご近所が舞台だ。ニューヨークのブロードウエイのそばだ。

この映画に関して思い出はふたつ。学校で友達を探すシーンがあるのだが、ピアノ練習室にいる学生に、「Do you speak English?」と聞いてから質問をしている。マンハッタンの学校でこの質問が出るのだなあ。

 思い出のもうひとつは、1980年代なかばにまたアメリカに行ったとき、ホテルでテレビを見ていたら、この「フェーム」がテレビドラマになっていることを知ったことだ。もっと驚いたのは、朝鮮戦争を舞台にした医者の喜劇映画「マッシュ」もテレビドラマになっていたことだ。あの映画は毒が強く、だから大好きなのだが、家庭に届くテレビドラマになるのかと驚いた。そういえば、この映画は、韓国の野戦病院のシーンがほとんどで、いつも米軍放送のラジオで異国情緒音楽が流れていた。アメリカ人が理解した変てこなアジア音楽のことだ。

 1980年のアメリカで見た音楽映画3本のうち、2本はアメリカに行く前から知っていた。日本ではまだ公開されていなかったから、アメリカで見るチャンスをうかがっていた

 2本のうち1本は、ジャニス・ジョプリンをモデルにした「ローズ」だ。主演のベッド・ミドラーは歌手・俳優だが、ロック歌手を演じるには無理があるように感じた。「スター誕生」のバーブラ・ストレイサンドを見ていて、「どうもしっくりこない」と思ったときに、この「ローズ」を思い出した。

 アメリカで見たもう1本が、「ブルース・ブラザース」だ。どうしてもこの映画を見たかった。R&Bが大好きだから、映画に登場する音楽がたまらなく楽しい。アレサ・フランクリンレイ・チャールズジェームス・ブラウンも出てくるのだから、これはもう歓喜。動いているジョン・リー・フッカーを見た。ツイッギーも見た。ジョー・ウォルシュスピルバーグには気がつかなかった(のちに、テレビ放送でわかった)。キャブ・キャロウェイの偉大さは、帰国してからブラックミュージックに詳しい友人に教えてもらった。

 音楽映画の最高峰は、この「ブルース・ブラザース」で決まりなのだが、残念ながら続編「ブルース・ブラザース2000」はあまりおもしろくなかった。1980年版の出演者に加えて、ドクター・ジョンやBB.キング、ウィルソン・ピケット、サム&デイブのサム・ムーアなど、「ウイ・アー・ザ・ワールド」並みの豪華版なのだが、セッションライブの雰囲気で、映画としての魅力に欠けた。アメリカでの興行収益を調べてみると、2000年版は、1980年版の三分の一の売り上げしかなかった。私が感じた通りだ。主演のひとり、ジョン・ベルーシが1982年に薬物の過剰摂取で死亡して、本来のブラザースではなくなったからかもしれない。