1360話 音楽映画の話を、ちょっとしようか 第4回

 鳥かごのステージ

 

 元バンドマンのジョリエットとエルウッドのふたりは、自分たちが育った孤児園が財政危機に陥っていると知り、すでに解散していたブルースバンドを再結成して公演し、その売上金を滞納している固定資産税の支払いにしようと計画する。そこで巻き起こるドタバタ騒動を描いたのが、「ブルース・ブラザース」だ。

 記憶に残るシーンはいくつもある。バンドの元メンバーに再結成を誘うシーンのひとつ。ジョリエットとエルウッドのふたりは、元メンバーが支配人をしている高級フランス料理店に行って、再結成の話を持ちかける。今はカタギとなった支配人は即座に断る。すると、テーブルの料理をクチャクチャ、ズルズルと派手な音を立てて飲み食いする。店内の客が途端に不快なしぐさをする。支配人は、「わかったから、もうやめてくれ!」と懇願し、ふたたびバンドに加わると告げる。音を出して食べる行為は、脅迫の手段になるというコントなのだが、日本ではどの程度理解されたか。

 これはすごいというシーンはいくらでもある。バンドが再結成されて最初の仕事は、カントリー音楽の酒場だ。正式の仕事ではなく、出演予定者を装って店に入ったのだ。カントリーの店だから客は全員白人、今風にわかりやすく言えば、トランプ大統領の強烈な支持者のような人たちだ。この店で得意のR&Bを演奏して、大ブーイングを浴びる。店のステージは動物園の鳥カゴのように金網で覆われている。演奏に怒った客がステージに投げつけるビール瓶からミュージシャンを守るためだ。

 なんとかうけたいと思ったバンドは、テレビ映画「ローハイド」のテーマソングと、”stand by your man”(タミー・ワイネット)を歌う。うれしいことに、ちょうどそのシーンがユーチューブにある。

https://www.youtube.com/watch?v=Psm96Dn9KII

 この歌をからかいながら、バカにして歌っているが、客にはまったく通じていないというのが重要で、「女は、たったひとりの男を支えて生きていくものなのよ」という、こんな歌が、こんな連中の愛唱歌なんだぜという批判に満ちたシーンだ。カントリーなんて、そういう音楽さという批判だ。

 ブルースが大好きなシンガーソングライター山崎まさよしアメリカに行ったテレビ番組があった。1999年のNHK―BS「山崎まさよし ミシシッピーを行く」だったと思う。ライブ演奏がある南部の酒場が登場したのだが、ステージが鳥カゴだった。「ブルース・ブラザース」のシーンは、観客を笑わせるギャグではなく、ノンフィクションだったのだ。プロレスに「金網デスマッチ」というのがあるが、音楽の世界にもあると知った。