1384話 「応答せよ」と韓国現代史 その2

 韓国の、この30年

 

 守屋准教授が韓国ドラマの話をする。

 「『応答せよ』っていう3作のシリーズなんだけど、前川さんが知りたがっている生活史の情報が詰まっているのよ。そんなに昔じゃないけど、1980年代から90年代の韓国人の生活がよくわかる。ドラマとしてもとってもおもしろいって、夫(韓国人)が気に入っていてね。韓国でも大評判だけど、私はまだ見てないんだ。第1作が1997年からドラマが始まり、第2作は1994年から始まり、第3作は1988年から始まる。それぞれ別のドラマなんだけど、ウチの旦那の話だと、第3作の1988年がいちばんおもしろいらしい」

 「応答せよ」の原題は、「ウンダッパラ」(答えて!)だから、英語のタイトルは「reply」だ。過去の青春時代を振り返って、「どうだい、青春を楽しんでるかい?」と、あたかも無線で語りかけているのだと私は解釈している。

 「応答せよ 1997」は、1997年のプサンの高校生の話から始まる。中心となる高校生たちは1980年ごろの生まれで、放送当時42歳ということになる。その世代の青春時代を描いている。ドラマの構成は、ひとりの女子高学生をとりまく男子高校生たちの恋物語で、放送当時の「現在」は、男の誰かと結婚しているのだが、さて、誰と結婚したのかを視聴者に推理させながら話が進む。だが、私はそこにはまるで興味がないし、青春学園ドラマには昔から関心がないのだが、一応おつきあいをした。

 ヒロインとなる女の子の両親は、ソン・ドンイルとイ・イルファのふたりが演じているのだが、役者の名と役名が同じという趣向がある。夫婦別姓の韓国だからできることで、時代も内容も違う第2作でも同じ。第3作では、親の世代はすべて役名と役者名が同じになっている。

 第2作「応答せよ 1994」(2013年放送)はソウルの大学生の群像劇だ。これはおもしろくなった。地方出身者のソウルのカルチャーショックとか、ソウル育ちの大学生の田舎者差別とか、日本でもあるだろうなという話題が出てくる。

 第3作「応答せよ 1988」(2015~2016放送)は、1988年のソウルの高校生たちが登場するが、学園モノではない。ご近所モノと言っておこうか。たまたま同い年の若者がいる5組の家族の物語だ。バラエティー番組を作っているスタッフがドラマを手掛けたという事らしく、随所にコメディー的コントが入る。第1話から大笑いさせられるのは、第2話の「1994」の大学生が、第3話では浪人6人目の長男と高校2年生の次男がいる父親役をキム・ソンギュンがその役名でやっている。怪演である。

 1988年から2016年現在の家族の物語は、1970年ごろ生まれた人々の、自分たちの歴史のドラマだ。1988年の高校生は、パソコンもポケベルもなかった時代を生きていた。ラジオとカセットテープとVHSの時代だった。「1994」の大学生はポケベルを使っているといったあたりが、「あー、そうだった」と懐かしくなるところだろう。1970年ごろに生まれた人は、放送当時46歳。守屋さんのご主人の年齢だろう。

 守屋さんが私にこのドラマの話をしてくれたのがいつだったかはっきりとは覚えていないが、放送が終わってまだそれほど時間がたたない2016年か2017年だったようだ。私はすぐさま全3作を見た。守屋さんが言うとおり、「応答せよ 1988」は大傑作だと思った。韓国社会の評判も高かった。