1394話 「応答せよ」と韓国現代史 その12

1980年代の音楽とドラマ 「青春」

 

 ドラマ「応答せよ」シリーズは、設定した時代の音楽を流すことで、「あの時代」の雰囲気を出しているのだが、「1988」では音楽がより一層、力を持たせている。ドラマのなかでよく音楽が流れるが、その音楽はどうやらAグループとBグループに分けられるような気がする。Bグループは1988年ごろの高校生がよく聞いていた音楽だ。ラジオのスイッチを入れて、若者向け番組にダイアルを合わせれば流れてきた歌だ。Aグループの音楽は、いわばドラマのテーマソングのような使われ方で、1980年代のヒット曲ではあるのだが、オリジナルのまま流れたり、今の歌手のカバーバージョンだったりと、いろいろ変化させている。

 ドラマで使われた数多い歌のなかで、「この1曲」という特別な歌がある。その歌が、このドラマのテーマソングだ。「応答せよ 1988」の最終回の最後の部分、放送当時の現在(2016年)、40代なかばになったドクソンとテクの夫婦が、高校生だったころを振り返って会話するシーンがある。

 ドクソンが語り始める。

 「最近、実感することがあるの。キム・チャンワンの『青春(チョンチュン)』という曲、若い頃は心に響かなかったけれど・・・」

 「響くだろ」

 「うん、私のことを歌っているみたい。自分でも意外よ」

 「年をとった証拠だよ」

 「そうね、年をとった」

 

 この会話のバッグには、もちろんキム・チャンワンの歌声が流れている。私にとっては、このドラマに登場する数多くの歌手の中で、昔から知っているほんの数人のひとりがこの歌手だ。

 キム・チャンワンの名を初めて知ったのは、たぶん1980年代だったと思う。韓国のロック界では特別な存在だった。どのくらい特別だったかと言えば、『エイジアン・ポップ・ミュージックの現在』(大須賀猛+Asian Beat Club編、新宿書房、1993)のなかで韓国の大衆音楽を紹介している短い章で、キム・チャンワンは「孤高の韓国ロッカー」(湯浅学)として2ページの記事がある。

 1954年生まれのキム・チャンワンは、弟ふたりとサヌルリム(山彦)というバンドを結成。1977年のMBC大学歌謡祭に出場して予選を通過したものの、キム・チャンワンはすでにソウル大学を卒業しているということで、決勝進出できなかったが、音楽業界に認められ、77年にデビューアルバムを発売している。

https://apeople.world/ja/culture/music_004.html

 サイケデリックロックのバンドとして紹介されている。ソテジなどアイドルの歌は当時の日本のテレビでは流れても、韓国のロックは聞くことはできず、キム・チャンワンの名も忘れ去った。

彼の名に再び出会ったのは、役者になってからだ。

「ぶどう畑のあの男」(2006)

「彼らが生きる世界」(2008)

「逆転の女王」(2010)というドラマ。

「僕の彼女を紹介してください」(2004)といった映画を見て、出演者名に「キム・チャンワン」とあり、経歴を調べて「ああ、あのロッカーだ!」とわかった。日本では岸部一徳陣内孝則など、元バンドメンバーで役者になった人はいるが、キム・チャンワンの場合は、作詞・作曲・歌を担当し、音楽プロデューサーもやるミュージシャンだから、日本の元ミュージシャンの役者とはだいぶ違う。

「応答せよ 1988」。劇中に何度も流れるフォーク調の歌が気になり調べてみたら、あのキム・チャンワン作詞・作曲・歌の、「青春」だとわかったというわけだ。

キム・ピルとオリジナルを歌ったキム・チャンワン「青春」。日本語訳詞つき。

https://www.youtube.com/watch?v=bP5okb8f6Os

これが1984年発売のサヌルリムの「第7集」。このアルバムに「青春」が入っている。フォークソング風だが、ギターはジャニス・ジョプリンの「サマータイム」に似てるよね。

https://www.youtube.com/watch?v=P6ixvR1nQtk

サヌルリムのベストアルバムは、これ。サイケデリックバンドの片鱗に、フォーク調の曲が入っている。

https://www.youtube.com/watch?v=KkDlq4ieZDs&list=RDKkDlq4ieZDs&start_radio=1&t=1835

「応答せよ 1988」で使われた曲は次のサイトにまとめてある。映像付きなので、ドラマの雰囲気が少しはわかるだろう。

https://coneru-web.com/respond-1988-ost/