外国料理の壁 アヒルとシリアル
羊肉のように、日本でなかなか定着しない食材や製品を考えてみる。
外国の市場やフードコートなどを見物していて、「日本人は好まないなあ」としばしば思うのはアヒルだ。中国はもちろん韓国でも食べる。東南アジアでも食べる。でも、日本人は好まない。なぜかという疑問を投げかけにくいのは、私もあまり好きではないからだ。タイにもアヒルの汁そばなどがあるが、それ以外食べるものがないという状況にならないと、まず食べない。北京ダックだって、けっしてうまいとは思わない。多くの日本人も、私と同じだろうか。
白く甘く(食パンにも砂糖が入っている)ふかふかに柔らかいパンは、多くの日本人の好みだが、私は皮がパリパリのフランスのパンや、ライ麦とか全粒粉などを使った色がついたパンが好きだ。このように、多数の日本人の好みと私の好みがずれる例はあるが、私の食の好みが平均的日本人と同じらしいと思うことの方が多い。日本であまり広まらない食べ物で、私も好きではない例は羊肉やアヒル肉以外にも多い。
日本に来た西洋人が嘆いているのは、シリアルの種類が少ないことだ。子供用の甘いシリアルしかないという不満だ。その昔、1960年代だと思うが日本でも、「ケッロッグのコーンフレイク」がしばしばテレビコマーシャルで流れていたが、子供のおやつという位置で、それは今もほとんど変わらない。トウモロコシや麦類の加工食品シリアルは、嫌いだ。ある食品メーカーで、シリアルの販売担当だった人に会ったことがあるのだが、「どうやっても売れなくて、苦労しました」と言っていた。
西洋人の朝飯ということでは、オートミールも嫌いだ。オート麦の加工品で、粥のようにして食べることが多い。ポリッジも嫌だ。まずい。というわけで、私が嫌いな西洋の朝食が、やはり日本で受け入れられない。
外国のものではないのに、日本人はなかなか口にしたがらないものもある。
ここで今書き出したようなことをテーマに、江原絢子(東京家政学院大学名誉教授)さんに教授してもらったことがある。羊肉だアヒルだと私が食材をあげていくと、江原さんが「豆乳もそうですね」とおっしゃった。
そうだ。牛乳に対する拒絶感はなくなってきたが、豆乳は普及しない。
1974年の香港。散歩をしていて喉が渇いたから、商店でビン入り牛乳を飲んだ。「なんだ、これは! まずい」と感じたのだが、豆腐臭いので、これが豆乳というものかと想像はついた。豆乳を口にしたのが、それが最初で今のところ最後だ。
豆乳とは関係ないのに、江原さんと話していて思い出したのは、コメの麺だ。中国南部から東南アジアでコメが原料の麺をよく食べるのは、小麦があまりとれないが、コメはいくらでもあるという農業環境によるものだ。だから、日本ではソバ粉や小麦粉を利用して団子や麺を作ってきたことはよくわかる。しかし、余剰米といった言葉が話題になるコメ余りの時代になれば、コメの麺を作ればいいじゃないかと思ったが、ほとんど作らなかった。家畜のエサだ、学校給食だということになり、コメのパン作りが話題になったが、コメの麺は普及しなかった。
コメが足りない時代でも、くず米はせんべいやあられや団子になったが、主食として麺やすいとんにはならなかった。コメが余っても、麺にしなかった。考えてみれば、韓国も同じだ。
で、私はというと、焼きビーフンを例外として、コメが原料の麺類はそれほど好まない。タイ料理でも、できるかぎり小麦粉が原料の麺を探している。
というわけで、私があまり好きでない食材は、日本ではあまり普及していないらしいという結論となった。私の食の好みは平均的日本人と同じレベルらしい。はい、私は平均的日本人です。