1471話『食べ歩くインド』読書ノート 第19回

 

 

 P161立ち食い・・だいぶ前から、立ち食いについていろいろ考えることがあり、折に触れて情報を探している。最初の情報は、『東西「駅そば」探訪』(鈴木弘毅、交通新聞社、2013)で、「立ち食いソバは、今は立ち食いではなくなっている」というものだ。立ち食いソバはどうしても「男の世界」臭くて、女性客が来ない。そこで新たな客を呼ぶために、店舗面積に余裕があれば、できるだけ椅子席にしようと店内改装をしているという。たしかに、カウンターしかない店でも、カウンターを椅子席にしている店もある。富士そばにも、ほぼすべて椅子席になり、「立ち食いそば」は駅ホームを除けば、もはや歴史的名称になっている。

 欧米には立ち飲みの店はいくらでもあり、つまみを置いている店もあるが、たったまま食事をさせる店は、ピザかケバブのような軽食だ。中国人が路上などで立ったまま丼飯や麺類を食べている光景は見たことがあるが、移動式屋台だと、そもそも椅子もテーブルもない。立ったまま食べるか、その辺にしゃがむしかない。タイ人は、基本的に立ったまま飲食することはない。立ち食いの麺料理店はないし、路上のスナック類でも、そこの立ったまま食べる人は少ない。タイで20年以上暮らしている日本人の友人たちに、「タイで立ち食いは普及するか」というテーマで質問すると、「ものすごく安いとか、深夜や早朝の営業で、営業場所に競合店がない場合なら、もしかして可能かもしれない」という結論が出た。

 立ち食いソバがある日本でも、立ち食いで定食を食べさせる店はないだろうなどと考えている頃、立ち食いのイタリア料理店やフランス料理店が出現したと知った。

 テレビ東京の番組で、立ち食いをテーマに2作放送したことがある。最初の話は、台湾の実業家が、日本の立ち食いソバのシステムを台北で導入しようとしたという話。開店当初から立ち食い客はなく、のちに再取材したら、その店はなくなっていた。2番目の話は、「俺のフレンチ+イタリアン」を上海で展開したいと考えた中国人実業家の話。日本と同じように立ち食いにしようというのが当初の計画だったが、会議を重ねると、椅子席がどんどん増えていく。立ち席を少し残して開店したが、店がどんなに混雑しても、誰も立ち席には行かない。椅子席では食事会が始まったり、パソコンを持ち込んで仕事をする客もいて、「回転率を上げて価格を安くする」という営業方針は完全に大失敗だった。再取材では、客の滞在時間を制限していた。この話は、要約してこのサイトで紹介している。

 今、「俺の・・」の店舗を調べると、立ち食いレストランの本家でも、椅子席が主流になるという変化があったことがわかった。

 外国には立ち食いの店はないのか。スペインのタパスやピンチョやサンドイッチのような食べ物ではなく、ナイフとフォークで食べるような料理を出す立ち食いの店だ。バルト3国の旅で、リトアニアの首都ビリニュスで立ち食いレストランに行ったという話を、台北や上海の話も加えて、1338話で書いている。

 そういういきさつがあっても、インドの立ち食い飯屋だ。路上の屋台で、そもそもテーブルも椅子もないなら、客は立ったままかしゃがんで食べることになる。そういう食べ方ならわかる。だから、問題は、店舗を構えた食堂で、立ち食いのシステムがある店がインドにあるという161ページの記述と写真が興味深いのだ。

 リトアニアの料理店は共産党時代からある店で、おそらく昼食時の混雑を解消するために回転率をあげようと立ち食いにしたのではないかと思うのだが、インドの場合はどういう理由からだろうか。163ページには、「バンガロールではティファン屋にしろチャーエ屋にしろイスを置かないスタイルが多い」というし、しかも食券制だ。「IT都市バンガロールで、なぜ立ち食い?」と、本の余白に疑問を書いた。

 上の文章を書いてからしばらくして、インドの立ち食いの動画をいくつも見つけたので、のちほど別のテーマでまた触れる。