1473話『食べ歩くインド』読書ノート 第21回

 

 

 インドの飲み物の話の続きだ。

 外国旅行など夢のまた夢だった少年時代、テレビの旅番組、もしかすると「兼高かおる世界の旅」だったかもしれないが、ココナツジュースを飲むシーンを見た。ココナツの上の方をそぎ落とし、ココナツに口をつけて、中の液体をごくごく飲む。「これぞ、熱帯!」という感じだった。高校生になれば、バナナはもはや高級果物ではなくなったが、日本でココナツは売っていなかった。私の知らない場所でたとえ売っていたとしても、とうてい買える値段ではないだろう。日本に住む高校生は、ココヤシの木も、ココナツも、ココナツミルクもまだ見たこともなかった。

 インドの路上で、あこがれのココナツを売っているのを見つけた。緑のココナツの上部をナタで削っている。路上の商人に、「私にも、くれ」とジェスチャーで示し、前の人と同じように、ココナツを両手に持ち、口をつけた。生ぬるく、ほんの少し甘く、ちょっと青臭い。決して、うまい物じゃない。それが最初にして最後のココナツジュース体験だった。

 P171紅茶・・インドの紅茶はこういうものだという説明がある。

 「最大の特徴はスパイスが加えられることだ。カールバッタと呼ばれる金属製の乳鉢と棒で砕かれた生姜、カルダモン、シナモンなどが単独かミックスで投入され、何度か沸騰させたのち、茶漉しを使ってグラスに注がれる。これがインドでの基本的なチャーエの淹れ方である」

 ということは、インドでカルダモンやシナモン風味の紅茶を飲んだことがない私は、基本的なインド紅茶を飲んだことがないという事だろうか。駅や路上や粗末な屋根があるだけの茶店で、立ったままか、石かなにかに腰を下ろして、おそらく100回くらいは紅茶を飲んだと思う。紅茶に興味があって、ダージリンでちょっと紅茶の勉強をした。紅茶屋が商売熱心で、TGFOPは今でも覚えている。これは、”Tips Golden Flavour Orange Pekoe”の略称だと教えてもらいメモをしたのだが、今インターネトで答え合わせをすると、”Tippy Golden Flowery Orange Pekoe”が正解らしい。たぶん、私の聴き間違いだろう。紅茶のことを教えてくれた授業料として、その紅茶屋で多少高い紅茶も買ったが、いちばん多く買ったのは、路上や駅で飲みなれている”Dust”(ゴミ)と分類された粉茶だった。ミルクをたっぷり入れても薄くならないこういう茶葉が、私の好みに合っている。そういうわけで、ダージリンでも結構紅茶を飲んでいたが、スパイスの味や香りの記憶がないのだ。

 余談だが、その旅で大量に買った紅茶は、羽田空港で問題になった。茶葉ではなく、別の植物の葉ではないかと疑われ、「だいぶ吸いましたね」などという誘導尋問を浴びつつ、紅茶の包みの封を切られた。

 P190・・「蒸し暑いタミルの夜はハードリカーもいいが、とりあえずビールといきたい」という文章を読んで、氷について考えた。インドではハードリカーを、どう飲むのだろうか。ストレートか、ロックか、水割りか。氷に関して強い関心を持ったのは、インドの後タイに行ったからだ。統計的根拠のない推測だが、世界3大氷消費国を考えると、アメリカ、タイ、日本になる。ヨーロッパ人は、冷たい飲み物をあまり好まない。熱帯アジアでは、タイが傑出しているのは明らかだ。私の調査が及んでいないのは、オーストラリアとニュージーランド中南米だから、「3大」ではなく、どこかの国を加えて、「トップ5に入る」とした方がいいのかもしれない。

 飲み物に入れる氷の消費量ということでは、南アジアは低いと思う。そのなかで、酒に氷を入れるのかという疑問だ。どこの国でも酒を飲まない私だから、完全に想像で書くのだが、外国人も多く来るホテルのバーなどでは「清潔な水で作った氷」が用意されているだろうが、酒の値段が安くなるバーだと、どうなんだろうか。

 今のインドにかき氷はあるのだろうか。「インド かき氷」で検索すると動画も含めて、いくらでもヒットした。おお、時代は変わったのだ。カンナ式のかき氷製造器や回転式かき氷製造機もある。ただし、氷そのものが、冷蔵用なのか「飲用可」なのかの説明はない。冷蔵用なら、その昔、カルカッタで10センチ四方くらいの氷を買い、甘い紅茶に入れて、アイスティーにして、パラゴンホテルの中庭で飲んだが、旅行者たちからホラー映画を見るような目で見られた。