1477話『食べ歩くインド』読書ノート 第25回

 

 

 手かスプーンか その1

 インド人は手食が当たり前ということは知っているが、スプーンを使うこともあるようだという現場を見た。

 最初は、もう5年以上前になるだろうか、テレビをつけたら「世界の車窓から」(テレビ朝日)をやっていた。インドのどこかの駅の食堂が映っている。男たちの食事風景が、ナレーションもなく流れているのだが、なんだかおかしい。これは、本当にインドだろうか。私の違和感は、客の多くがスプーンで食事をしていたからだ。番組終了直前に、石丸謙二郎のナレーションが流れた。「最近のインドでは、スマホが普及したので、指が汚れないようにスプーンで食事をする人が増えました」

 サイトを読むだけなら左手でもできるが、文字を打つなら右手が必要だ。右手の指を油とスパイスだらけにするわけにはいかないということで、スプーンの登場となったのだろう。

 2度目の発見もテレビだ。これは、つい最近のこと、北インド、ヒマチャール・ブラデーシュ州を紹介する紀行番組だった。マニカラン温泉のヒンドゥー寺院での会食シーンを見ていたら、おお、スプーンで食事している人が結構いる。カメラの角度が変わると、「かなりいる」から「ほとんど手食」に変わったりするが、スプーンで食事をしている人は確実にいる。

 そして、『食べ歩くインド』だ。この本に山ほど載っている料理写真に、スプーンが写っている例がいくらでもある。料理を取り分けるときはスプーンを使うということは、もちろん知っている。しかし、取り分け用ではなく、料理を口に運ぶためのスプーンではないかと思われる写真のページを、以下書き出してみる。インドに詳しい方は、さて、どう思います?

 『北東編』p44、56、73、105、124、137、140、156、185(上の写真)、276、281。

 『南西編』p53、168、284。

 インド人は、どうやって食べ物を口まで運んでいるのだろうかという疑問を、動画サイトで確認することにした。いくつもの検索語を使って調べていると、スプーンで食事をしているシーンがいくらでも出てきた。「おお!」と驚きと喜びの声をあげそうになったのは、すでにちょっと調べた「立ち食い」や「食器」の情報も詰まっている動画だ。以下、その動画を少し紹介する。ゆっくりと、ご覧ください。

 ハイデラバードのビリヤニの屋台。立ち食いができるカウンターがあって、客はスプーンを使って食べている。

 パキスタンのカラチのビリヤニ屋でも、スプーンがつく。

 立ち食いのビリヤニ屋とスプーンの親和性が高いのか? ビリヤニ屋以外でも、スプーンで食べる屋台がある。

 SPECIAL HOTELというタイトルがついた動画がそれ

 これも。この店は、タンドール釜付きだ。コメにもパンにも、スプーンがつく。背後をよく見ると、スプーンで食事をしている人たちの姿が見える。

 路上のサモサ屋もスプーンつき。

 この屋台も

 これはバングラデシュダッカの屋台。動画の最初に出てくる客は、指で食べようとして、スプーンに変えている。

 こうやって動画を探せば、スプーンで食事をしているインド人の姿をいくらでも見ることができる。日本語のサイトでは、「インド人は100パーセント手食する」というのや、「今は、スプーンを使うのはごく普通」などと書いている人がいるが、ていねいに動画を探るだけでもいろいろ見えてくる。