1527話 本の話 第11回

 

 『とっておき インド花綴り』(西岡直樹、木犀社) その3

 

 ニワトリのタマゴくらいのニガウリは、「マラ・キーノック」という。「トリの糞ニガウリ」という意味だ。小さなトウガラシは、「プリック・キーヌー」といい、「ネズミの糞トウガラシ」という意味だ。タイ語をちょっと学ぶと、タイ人がいかにキー(クソ)が大好きかよくわかる。

 実は、キーという語は「クソ」という意味を離れて、日本語では人の性格などを表す「~屋」、「~虫」、「~っぽい」といったニュアンスを表す。

 例えば、キー・ローン(泣くクソ)とは、「泣き虫」のこと。キー・ニャオ(粘るクソ)は「ケチ」、キー・ナーオ(寒いクソ)は「寒がり」、キー・マオ(酔うクソ)は「酔っ払い、酒飲み」など、日常的によく使う。

 実は、一部のタイ人は苦味調味料としてクソを食う。アフリカでは知らずに、腸の内容物入り焼肉を食べたことがある。肛門から出ればクソになる一歩手前の、消化液である苦い胆汁がたっぷり入ったものを調味料として使う。そうとは知らずに食べて、苦い肉に驚いた。石毛直道さんのエッセイに、アフリカで腸の内容物入りの料理を食べたという話があったのを思い出した。

 タイ人も胆汁を調味料に使うという話は活字では知っていた。バンコク在住の友人が、「あらゆる肉料理ができる店があるよ」というので、その肉料理専門店に案内してもらった。「胆汁入りの料理はできる?」と聞いたら、店主がいとも簡単に「できるよ」。テーブルに登場したのは、焼いた牛肉をヤム(和え物)にした料理で、思ったほどは苦くなかった。量を加減したのだろうか。

 そういう料理は、日本語ではココに情報があるし、タイ語อุเพี้ยで検索すれがタイ語の情報がいくらでも出てくる(翻訳すれば、日本語の大意はつかめる)。この動画の1分40秒ほどのところと、「ウピア」といって紹介している液体がそれだ。「クソだ」と解説している。

 こちらの動画は、英語だから、POOP SOUP(うんちスープ)の作り方がよくわかる。10分過ぎあたりから詳しくわかる。腸や胆嚢の「内容物」を利用している。同じシリーズの動画で、フィリピンの「うんちスープ」も紹介している。10分過ぎに登場する。さらに調べると、ベトナムにも「うんちスープ」があることがわかった。ヤギの腸の内容物も調味料にしていることがよくわかる。この動画の5分20秒あたりから。料理をしているのはベトナム少数民族のような気がするが、どうなんだろう。胆嚢は、このブログで紹介しているような形だから、動画の内臓は胆嚢ではなく腸だろう。

 タイ語で胆汁は「ナム・ディー」というのだが、タイ語の料理動画を見ていると、「ウピアを入れます」と言って入れている液体は、胆汁にまみれた糞だろう。タイの調味料であるパー・ラーあるいはパー・デークと呼ばれる液体状塩辛とこのウピアはよく似た外見だが、当然別物だ。

 「動物の書き声以外すべて食べる」という広東人も、家畜のすべての部位も血も口にするモンゴル民族も胆嚢は捨てる。西洋人も、捨てる。しかし、タイ人やラオス人そして雲南タイ族は、胆嚢(か、胆汁)を調味料として使う。強烈な苦味が大好きなのだ。苦味が好きなインド人は、はたして胆汁を利用するのか。その答えを知らない。

 期せずして、胆汁の話が長くなった。話が途中までだった小粒のニガウリの話は、次回に。