1533話 本の話 第17回

 

 韓国の本 その3

 

 『実物大の朝鮮・韓国報道50年』(前川惠司)に、わずか14ページ分だが、「韓国実像―1969年春から71年春にかけて」と題した写真ページがある。最初の写真は、やはりチョンゲチョン(清渓川)だ。「やはり」というのは訳がある。今のチョンゲチョンは川沿いの美しい公園として知られていて、環境美化の美談が語られることが多いのだが、これもおかしな話なのだ。

 チョンゲチョン沿いは、日本時代からスラムが立ち並ぶ地域だった。韓国独立後は朝鮮戦争も混乱もあり、難民が住み着くことでさらにスラムが拡大していった。私が「やはり」と書いたのは上で紹介したJTBの大型本でも、そのスラム写真がカラーで撮影されている。『実物大の朝鮮・韓国報道50年』でも、チョンゲチョンの写真を最初に持ってきているので、「やはり」と思ったのだ。この本には書いてないが、次の話はここで書いておきたくなった

 ドブ川に蓋をする工事は1958年から67年までかけて完了した。そのあと67年から川沿いで高速道路の工事が始まり、76年に完了したものの、不具合が見つかった。完成から15年後の1991年からの調査で、この高速道路がすでに「老朽化」していることがわかり、度々補修工事が行われてきた。補修工事を繰り返しても、安全が保障できないという理由で、2003年からソウル市はついに本格的な河川改修工事をすることになった。川の蓋と高速道路を取り除いて、川を復元する工事だ。

 調べてみると、あまり表向きには語られない事実がわかってきた。工事が完了してそれほどの年月が経っていないのに、すぐに補修工事をしなければいけないような高速道路の建設をしたのは、現代建設である。1965年に現代建設に入社したその男は、なんと1970年には取締役になり、高速道路が完成した直後の77年には社長になり、88年には会長になっている。

 その男、李明博は、1992年に国会議員になり、2002年にソウル市長になった。そして、市長が主導してチョンゲチョン改修工事に着手することとなった。高速道路完成後15年にして、「老朽化が激しく、安全が保障できない」と宣告された高速道路を建設した会社の元社長にして元会長が、ソウル市長になって河川復元工事を行なう。工事にあたるのは、もちろん現代建設だ。

 ネットで調べると、韓国のマスコミは「名市長」と彼を讃え、大統領への道を開いた。しかし、土木建設工事の過去には言及していない。

 これを日本では、「マッチ・ポンプ」という。