『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』(光瀬憲子) その3
この本にでてくる料理にまつわる思い出や感想や雑学を書き出してみよう。見出し語の中国語の料理名・その発音のカタカナ表記・日本語訳は、この本の表記をそのまま採用する。
◆虱目魚粥(スームーユージュウ、サバヒー粥)・・・サバヒーはサバヒー科の魚で英語ではミルクフィッシュという。日本人には馴染みがないが、台湾やフィリピンではもっとも愛されている魚といってもいいだろうという話は、旅行記で散々読んでいて、いつか食べてみようと思っていたが、その機会はなかなか来なかった。
ある年のこと、フィリピンで食べた。タガログ語でbangusといい、シニガンというスープにしてもらったのだが、身が柔らかく、小骨が多く、うまいとは思わなかった。揚げればまだましなのだろうが、小骨が問題だ。フィリピンの、この魚の下ごしらえの動画では、15分のうち、小骨を取るのに8分もかかっている。7分過ぎから小骨取りのシーンが始まる。
フィリピンの数年後、台湾のどこかの路上で、このサバヒーの粥を見つけて、食べた。「ああ、まずい!」という印象はフィリピンの時と同じだった。肉が柔らかく、ニシンのように小骨が多く、口の中が小骨だらけになる。碗の名かも、小骨だらけだ。日本人が食べたがらない理由がよくわかった。この本を読むと、小骨をていねいに取り除く店と、小骨をそのままにしておく店の両方があり、それぞれの粥にファンがいるらしい。
◆魯肉飯(ルーロウファン、煮込み細切れ肉かけご飯)・・・大好物である。日本風に言えば丼飯だが、台湾では飯茶碗で出てくる。これだけで腹いっぱいにする料理ではない。豚のバラ肉を5ミリ角ほどに切って煮込んだものが飯の上に載っているのが馴染みの姿だが、この本では、豚ひき肉を使う店もあるという。好みの問題だが、ひき肉は手抜きだと思う。
◆牛肉麵(ニューロウミェン、牛肉入りスープ麺)・・・戦後、国民党軍とともに中国から台湾にもたらされた料理のひとつ。そういう料理はいくらでもあるのに、この料理は私には政治的に思えてならない。国民党の中国に対するラブレターのようで、台北市が牛肉麺祭りなどを企画し、「これぞ、台湾の料理!」と盛り上げようとしている。そういった政治の話とは別に、物は試しと食べてみると、「まずい!」と、声高らかに言いたくなった。こういう麺料理を「うまい」という日本人などいるのかと思ってネット検索したら、「台湾グルメの牛肉麺ってまずいの?まずいと言われる理由とは?」という長い文章がある。「まずいという日本人が少なくないが、うまい店もありますよ」という内容だが、試してみたい気はしない。
◆蚵仔煎(オアジェン、牡蛎の卵とじ)・・・「カキのもんじゃ風卵入り」と解説したくなる料理。お好み焼きやオムレツなどとは違って、たっぷりの水で溶いた澱粉を使うからぶよぶよだ。この澱粉を、この本では片栗粉としているが、それならジャガイモの粉ということになる。ある日本語のレシピでは「地瓜粉」と書いていながら「タピオカ」という説明をつけている。キャッサバ澱粉の中国語は「木薯粉」で、地爪粉はサツマイモの粉だ。肉圓(台湾語読みで、バーワン)という透明な団子も、この本では片栗粉を使うとあるが、これも地爪粉ではないかと思う。ただし、店によっていろいろな粉を使っている可能性はある。
このオアジェンは、タイのオースワンとほとんど同じものだが、タイでは油で泳がせるほど油を使うので、このオアジェンの方が好みだ。ただ、「小麦粉なら、もっとうまいのになあ」といつも思う。