1541話 本の話 第25回

 

 『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』(光瀬憲子) その5

 

 台湾料理の話はまだまだ続く。

魷魚焿(ヨウユーゲン、イカあんかけスープ)・・・焿とはなんだ? もう20年以上前になるが、この語を中国語辞典で調べたのだが、載っていない。旅行者用の簡略辞典ではなく、ちゃんとした辞典だ。パソコンを買ったので、IMEパットで調べたのだが、出てこない。検索語にできないのだから、調べようがない。そして今、台湾の食事情がいくらでもネットに載るようになって、コピペで検索できるようになった。それで、わかった。この語は漢字ではあるが中国語(中国の標準中国語)ではなく、台湾語だったのだ。意味は、とろみがついた汁もののこと。

 この料理に似たものはタイにもある。厨房で水につかっている材料は、水で戻したスルメだと思っていたのだが、この本ではどうやら生イカを炒め煮にしたものと理解できる説明をしている。私の誤解かとネット情報を当たると、スルメ説と生のスルメイカを加熱した物説の両方があるが、私はやはり「戻したスルメ」説を採用したい。

愛玉(アイユー、レモン風味のさっぱりゼリー)・・・1980年代のなかばだから、もう35年以上前になってしまうのか。すっかり出不精になった今と違い、そのころは東京中をやたらに歩いていた。本郷あたりから上野に歩いているときに、「愛玉子(オーギョーチイ)」という看板を掲げたレトロな店に出会い、飲食店であるらしいということしかわからないが、なんだかおもしろそうで店に入った。店のおばあちゃんはゼリーの店だといい、その原料はイチジクの実のような植物だと店にある原物を示して教えてくれた。それがこのゼリーを口にした最初で、いまのところ最後になっている。台湾では探せば見つかるのだろうが、探してまで食べるほどじゃないと思っている。本郷あたりのあの店はもうないだろうなと思いつつネットで探すと、まだあった。この店だ。散歩の途中に見かけたら、立ち寄らずにはいられない風情がある店だ。

 ただし、トリップアドバイザーで紹介されているこの店の「口コミ」欄を見てみると、とんでもない汚店に変貌してしまったようで、残念。「愛玉子 汚い」で検索すると、情報がいくらでも出てくるという変貌ぶりだ。

鳳梨(フォンリースー、パイナップルケーキ)・・・鳳梨はパイナップル、酥はパイやクッキーのような歯触りの菓子のこと。私の印象では、ここ10年ほどの間に、政府や観光業者などがこぞって売り出そうとしているように思う。日本で言えば和菓子屋風の店構えの菓子屋が台北にあり、「どうぞ、試食してください」と小皿に用意されていた。味は想像できるが食べたことがないので、試食すると、想像とは、ずれた。「うまいだろうなあ」と想像する方向とは違い、好みには合わない。ネット情報を探すと、「冬瓜など混ぜ物が入ったものもある。まずいものに出くわす危険があるので、おいしいものを探しましょう」などと書いてある。日本人の味覚では、ある割合で「まずい!」と感じることがあるということか。

 私も探せば「おいしい」と思えるものに出会えるのかもしれないが、まあ、わざわざ買うものでもない。お好きな方は、どうぞ。業者が熱心なほどには、日本人には売れていないように思う。日本人には、1度は買っても、リピーターがいないという商品では?

咖哩飯(カーリーファン、カレーライス)・・・台湾では、現在の日本の影響を強く受けて、さまざまなカレーを出す店ができているが、そういうカレーが登場する以前に家庭や食堂で食べられていたカレーは、黄色いだけであまり辛くないそうだ。韓国のカレーもよく似ている。どちらのカレーも、日本時代のカレーがそのまま保存されたものだろう。まだ食べたことがないが、食べてみれば、おそらく「うまい」とは思わないだろう。いずれ消えてしまうだろうから、歴史的資料として1度は食べておきたい。私のように、カレールウが販売される以前の「ライスカレー」を知っている世代が子供のころに家で食べたカレーが、韓国や台湾にそのまま残っているというカレーなのだ。台湾や韓国のカレーの写真を見ていると、私の時代の学校給食(1960年代)のカレーも思い出す。

 韓国のカレーは軍隊の食事から家庭へと広かったのだが、台湾ではどうなのだろう。