『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』(光瀬憲子) その7
書きたいことがいくらでもあるので、もう少し続けます。
◆台鐵便當(タイティエビェンタン、駅弁)・・・私が初めて見た台湾の弁当は、鉄道ではなく長距離バスのターミナルで売っていたもので、紙の箱に入った排骨弁当だった。トンカツに使うくらいの大きさの豚肉に衣をつけて揚げ、タレに浸して飯の上にのせ、煮た卵も載っていた。箸が竹ひごよりはやや太いという程度のものだったにも覚えている。盛り付けの美しさなど気に留めず、「肉がでかいぞ、文句があるか!」という弁当だった。その後何年たっても弁当のすがたは変わらなかったのだが、たぶん、コンビニの普及と、台湾人が日本を旅行して、日本の弁当に接した影響からか、台湾の弁当も少しは野菜を入れるとか、盛り付けに気を配るとか、変化が少しずつ見えてきている。あと10年もたつと、幕の内風なものも増えるかもしれない。
台湾の弁当事情に関しては、ちょっと古くなったが、2013年のアジア雑語林558話にある程度書いている(2013年はまだ500話台だったのか。あれから1000話以上書いたことになる)。そのコラムで、同じ2013年に出た台湾の駅弁を扱ったマンガを紹介しているので、ここでリンクを張っておこう。『駅弁ひとり旅 ザ・ワールド 台湾+沖縄編』。
あのころと違って、今では「台湾 駅弁」、「台湾 駅弁」と検索すると、文字資料や画像資料が数多く出てくる。そういう画像を見ていると、昔よりは彩りや栄養バランスを考えるようにはなったが、「肉だ! 肉だ! 文句はあるか!」という嗜好の骨格は変わっていないと思う。検索語を、「台湾 コンビニ弁当」に変えて、画像検索をやると想像力がふくらんできて楽しい。勉強にもなる。「韓国 弁当」と画像検索すると、韓国の弁当の方が、映像的には日本の弁当に近いこともわかる。
しかし、こういう遊びは決して深夜にやってはいけない。空腹に悩まされることになるからだ。昼食後にやるのが望ましい。
◆炒飯(ツァオファン、チャーハン)・・・台湾には餃子の店は多いのに、チャーハンや焼きそばがうまい店は少ないらしい。つまり、チャーハンを出す店が少なく、しかも日本人の口にあうチャーハンはもっと少ないようだ。これは私も体験済みで、台北の街中の食堂のメニューに「炒飯」があったので、ものは試しに注文してみたら、飯の塊がごろごろしていて、日本の街中華の方がよっぽどマシだと思った。そこでふと思ったのだが、世界でもっとも炒飯を食べているのは日本人で、だから炒飯に関する要求が高く、あれこれ言いたがるのではないか。「世界でもっとも」という点に関しては、証明のしようがないので単なる勘以上の話ではないのだが、「パラパラ炒飯」を強く望むのが日本人ではないか。タイの屋台の炒飯(カオパット)は、コメの性質上パラパラの仕上がりになるが、トマトや青菜を入れたがり、油でギトギトしがちである。高級ホテルのバイキングでは、日本人好みのパラパラ炒飯もある。
ネットにおもしろい記事があった。台湾のテレビ番組が選んだ「台北のうまい炒飯ベスト10」の店を食べてみたという体験レポートだ。自戒を込めて書くが、「台湾の炒飯は自分の好みに合うはずだ」という思い込みは間違いだ。日本人のためにチャーハンを作っているわけじゃないのだから。それはわかったうえで、この体験レポートの異文化体験は興味深い。
◆飯糰(ファントァン、もち米おにぎり)・・・タイ東北部やラオスなどを除くと、おにぎりは日本にしかないという主張の『おにぎりの文化史』のことはすでに書いた。「それは違うよ」という異議を申し立てたのだが、ここで台湾のおにぎり専門店の記事を紹介する。こういう記事もある。ちょっと調べれば、日本以外にもおにぎりはあることがわかるのに・・・。「パサパサ・パラパラの米は、握れない」というなら、もち米を使えばいい。「冷えた飯を食べる習慣がないから、おにぎりはない」というが、あたたかいおにぎりを食べると想像できなかったのか。
台湾のおにぎりの、ノリを巻いたものは日本の影響だろうが、飯を握ったものは中国から伝わったものかもしれない。中国のおにぎりのことは『中国人の胃袋』(張強、バジリコ、2008)に書いてあるという話もすでにした。
かつて、日本のKFCに焼きおにぎりがあったが、現在の中国のKFCには棒状の「おにぎり」(?)がある。「飯団」という説明がついているから、おにぎりなのだろう。台湾のKFCにも同じものがあるのかどうか、ネットでは確認できず。コンビニのおにぎりを温めて食べるというのが常識の国は、台湾、中国、韓国、そして沖縄など日本国内の何か所か。