1545話 本の話 第29回

 

 『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』(光瀬憲子) その9(最終回)

 

 台湾の料理の話は、まだまだ続けられるがキリがない。一応、今回で最終回としよう。

◆炸牛蒡(ザーニューパン、ゴボウ揚げ)・・・ゴボウに魚のすり身を巻き付けて揚げた料理を紹介している。「ゴボウは台湾でもごく一般的な食材」だと説明している。ネット情報ではこういった解説は極めて珍しい。ゴボウ関連の記事を探してみると次のようになる。これらはことごとく間違いなのだ。薄いネット情報だけを頼りにしたもので、自戒を込めてはっきり書くが、ウソの垂れ流しである。

・ゴボウは日本人しか食べない・・・こういう「日本特殊論」が一番多い。「ゴボウを日常の食材としているのは日本のみである」(ウィキペディア

・「ごぼうを食用としているのは日本とわずかに韓国と台湾だけで、栽培をしているのは日本のみ」(出張DASH村

・「実はゴボウを食用としているのは最近までは、日本だけだったことをご存知ですか。最近は健康効果が注目されて、中国や台湾でも食べられるようになりましたが、ゴボウは日本食だけに活用されてきた野菜なのです」(マイナビ農業

 私の最初の調査は「台湾 ゴボウ」で検索したのだが、ヒットしたのは「やはり」と言いたくなる濱屋方子さんの「台湾日記」(2015-11-15)だった。さすが、濱屋さんだ。日本時代の影響で、台湾でもゴボウを食べるという記述は、『台湾グルメ350品!』と同じ。台湾人がゴボウを食べ始めたのは最近ではないとわかるし、台湾の屏東県でゴボウ生産がさかんだと書いているので調べると、生産農家の話が日本語で出ていた。台湾でも生産しているのだ。

 さらに調査を進める。独立行政法人農畜産業振興機構発行の雑誌「野菜情報」(2018年10月)に、中国のゴボウ生産の話が詳しく出ている。箇条書きにすると、こういう事情だとわかる。

・日本のごぼう供給量の7割以上は国産品であるが、約2割は輸入生鮮品。

・(ゴボウの)輸入生鮮品は、近年、年間4万~5万トンで安定的に推移しており、9割以上が中国産で、それ以外にはわずかに台湾産とベトナム産が含まれている。

・(ゴボウの)輸出先は日本と韓国であり、両国で輸出量の約9割を占めている。

山東省で生産されたごぼうの約3割は国内向けで、半分はごぼう茶やごぼう酒などに利用され、残りの半分は生鮮食品として北京や南方の大都市圏へ供給される。中国では、日本のように野菜として消費する習慣がなかったことから、生鮮食品としての需要は低かったが、近年の健康志向の高まりにより、食物繊維が豊富な野菜として、炒めものやごぼう巻きなどでの消費が高まりつつある。

 台湾食文化の流れで、目下、「読みたいなあ」と思っているのが、次の2冊。どちらも光瀬憲子さんが関わっている。台湾の本屋に行くと、「日本語に翻訳して出版してほしいなあ」と思う本がいくらでもある。食文化に限らず、楽しい本をどんどん翻訳出版してほしい。

『台湾漬 二十四節気の保存食』

『台湾の美味しい調味料 台湾醤』

 そんなことを考えていたら、若くして亡くなった翻訳家の天野健太郎さんの本『風景と自由―天野健太郎句文集』を読みたくなった。

 次回からは、考古学の話を始める予定(もう原稿はできているが・・・)。