増えすぎた本を処分することはよく考える。1冊1冊、売るか売らないか選ぶのは面倒だから、いくつかあるジャンルのなかから、ひとまとめにして売ってしまうなら、どのジャンルにするか考えた。
例えば、この5年ほどの間にそのジャンルの本はほとんど、あるいはまったく買っていないというジャンルなら、もう処分していいだろうと基準を決めると、真っ先にその認定を受けるのは、アジア関連書だ。アジアの食文化関連書と台湾の本を除けば、ハノイのことを書いていた2016年以降、アジア関係書をほとんど買っていない。
最近もっぱらヨーロッパを旅しているのは、「アジアの憂鬱」があるからだ。軍の独裁政権下にあるタイやビルマのことを考えると、気が重いのだ。フィリピンの人殺し政権も、うんざりだ。将来の不幸を考えず、嬉々として中国の支配下に入っていくラオスやカンボジアを見ているのもつらい。タイもビルマも、かつても軍政時代があったが、タイに関して言えば、「いずれ自由にものが言える時代が来る」という希望があり、実際そうなったが、また軍につぶされた。
かつて、香港は大好きな街で、香港の本を書こうと資料を集め、歩き回ったものだが、中国に占領された香港に、もう行きたいとは思わない。今の香港市民には、こういう歌をプレゼントしたい気分だ。
そういうやりきれなさがあって、多くのアジアは、とても、のんびりと散歩していたいという気分ではなくなった。だから、関心は東ヨーロッパなどに移り、アジアの本を買わなくなった。買いたくなるような本は、ほとんど出ていないでしょ。
井村文化事業社やめこん、新宿書房、段々社、大同生命国際文化基金などのアジア小説を除いても、アジア関連書は軽く1000冊は超えるだろうから、ひと思いに一掃すれば棚がカラッポになって、いままで床に積んでいた食文化や建築や旅行史の本を棚に移せるのだが、そういう勇気はまだ、ない。仕事関連で言えば、私にアジアの原稿依頼はもう来ないだろうと思う。手持ちの資料を使って、アジアに関する文章を書くことは、もうないかもしれない。だから、「要るか要らないか」といえば、明らかに要らないのだ。タイの旅行ガイドブックも1970年代ものから集めているが、そういう資料を使った文章を読みたい人はいない。読者が5人か10人いたとしても、職業としてのライターは成り立たない。
アマゾンの「ほしい物リスト」には数十冊の本が入っているが、アジアの本は数冊しかなく、例えば『カンボジア山村の救荒食』といった本だ。68ページしかないこのブックレットに、いままで高い値段がついていたから買わなかったが、今調べると、比較的安い値がついていたので、購入決定。食文化の本だから買ったのだ。
1595話で、1960~70年代の旅行関連書に高い値がついているという話をした。いま、目の前の棚に見える『地球の歩き方 タイ』のアマゾンでの古書価格を、退屈しのぎに調べてみようか。
アマゾンに出品されているもっとも古い『タイ編』は87~88年版で、売価は3万0180円だが、これは持っていない。『88~89年版』は持っていて、これも3万0180円。それ以後の、私が持っている版の売価を調べてみる。
『タイ 90~91』1972円
『バンコク 92~93』2万9980円
『タイ 92~93』は出品されていないが、93~94年版は4530円。これも、持っている。
ついでに、ワールドフォトプレスのガイドブックを調べる。1973年初版の『タイ・ビルマの旅』の78年と81年改訂版は持っている。78年版はアマゾンへの出品はないが、81年版が1036円なのに対して、79年改訂版は3万4800円だ。出品者が「もったいない本舗」だから、信用できる業者なのだが、高すぎる。
アマゾンの売価は古書相場を表したものではなく、売り手の希望を示しているだけのことだから、出品者が少ないと、資料というよりも、「話題のネタに」という程度のものだ。オックスフォード大学の出版物は、マーケットが世界なので、外国のインターネット古書店の売価は、その時点の相場だと思える。
*『カンボジア山村の救荒食』は、すぐに届いた。薄い本だから、すぐに読了。ポルポト時代とその後の、救荒食を調べて書いた本で、おもしろかった。ただ、救荒食の具体的な料理法が書いてないので、隔靴掻痒(靴の上から足を掻いているいる感じ)だ。