1608話 本で床はまだ抜けないが その16

 マンガ 2

 

 『ブラックジャックによろしく』(佐藤秀峰)は、かねがね気になっていて、ブックオフで安く売っていたので、結果的に全巻買って読んだ。いまさら言うまでもないが、傑作だ。若手の医者たちを取り上げたテレビ番組で、このマンガを読んで医者を志したという人が何人かいた。プロサッカー選手にとっての、「キャプテン翼」か。名作・傑作ではあるが、置き場所がなく、読んですぐ、ほかの本と一緒に、ブックオフに売った。

 佐藤秀峰は『海猿』やこの『ブラックジャックによろしく』などを描いた有名漫画家なのだが、マンガは稼げないという実態を書いたのが『漫画貧乏』で、自分の収支を隠さずに書いている。小説家は一人で仕事ができるが、マンガ家は仕事場とアシスタントが必要で、収入が多くても経費も多いのだと嘆いているのがこの本だ。

 『岳』(石塚真一)もよかった。これは1巻から順に読んだのではなく、手に入る巻から買い、結局全18巻読んだ。そのうち何冊かは、今も捨てられずに床に積んである。2巻分が1冊になっている弁当箱マンガ、通称コンビニコミックになっているものをブックオフで買い、ヨーロッパ旅行に持って行ったことがある。機内でずっと活字本を読んでいるのは目につらいお年頃になったので、ウォークマンに入れた落語とマンガというのが、退屈になりがちな機内での楽しい過ごし方になっている。この手のマンガは、読み終えたら気軽に捨てられるのがいい。コンビニコミックは、たぶん十数冊は外国に運んだなあ。

 『大使閣下の料理人』(原作:西村ミツル、漫画:かわすみひろし)は、食文化の資料として手にし、結局全25巻買った。原作者は元大使料理人で、そのエッセイ『外交官の舌と胃袋――大使料理人がみた食欲・権力欲』(西村ミツル講談社、2002)も読んだ。「大使館の料理人」というのは、実はいないということがわかった。大使が自分のポケットマネーで雇う料理人という資格だから、大使付き料理人ということらしい。ポケットマネーといっても、巨額の手当から料理人の給料を出しているのだが、基本的には大使家族の食事を作るというお抱え料理人だということらしい。ちなみに、ロンドンの日本大使館に勤務したことがある人の話では、「日本大使館職員として恥ずかしくない生活をするように」と、かなりの額の手当が支給され、そのカネで、恥ずかしくない車を買ったりしたという。

 このエッセイでもっとも興味深かったのは、在外日本大使館の大使料理人の半分はタイ人だということだ。勤務地が欧米の、特にフランスやイタリアなどなら、生活は楽だし、料理人としてのハクがつくのだが、アジアやアフリカや中南米だと、日々の生活に苦労するだけで、料理人として得るものはなにもないと考える者が多く、応募者がいないのだという。だから、辻調理師学校とバンコクの日本料理店が協力して、大使専属料理人を養成して、タイ人料理人を世界の日本大使館に派遣しているのだという。日本大使主催のパーティーなら、絶対に日本料理ができないとまずいのだ。

 ここに書き出したマンガほどの知名度はないが、『蛍雪時代 ボクの中学生時代』(矢口高雄)全5巻は、1950年代の秋田の生活誌や中学生の記録として読んだ。矢口の作品といえば、『釣りキチ三平』などが有名だが、私はやはりノンフィクションを読みたかった。この話は長くなるので、次回に。