1621話 本で床はまだ抜けないが その29

 図書購入台帳 その5

 

 22日(日曜日)に、2度目のコロナワクチン接種のため病院に行く。2回目の副反応は強いという噂あり。若いと反応が強く、老いていると反応が弱いというが、個人差が激しいらしく、私の体はどう反応するのだろう。

 私と同年配くらいの医者の問診。

「1回目のあと、発熱などの症状はありましたか?」

「いえ、まったく」

「ええ、そうでしょう。60を過ぎるとね、発熱する元気はないですから・・」

「えっ?」

「いや、ホントなんですよ。若いとワクチンに対して強く反応するんですが、60を過ぎると、そんな元気もなくなって、副反応はほとんどないんです」

 接種後、百人並みの老人力を発揮して、ワクチンと不戦条約を結んだ結果、あの医者が言った通り、今のところ異常なし。若くないことを喜んでいいのやら。

 さて、図書台帳の話の続きだ。

1971に買った本の一部。

800日間世界一周』(広瀬俊三)。旅行記をある程度読んで気がついたことは、書名に「世界一周」とあったり、自分の旅を数字で表現している本はつまらんということだ。「世界85か国訪問」とか「海外渡航50回以上」などと「著者紹介」にある本も同様。

 近頃、書名に「世界一周」の語が入った本が、ひと山いくらで売れるほど出版されていて、おもしろくないと思ってまったく手を出していないのだが、秀作傑作はあるのだろうか。地球をひと回りしたくらいで「世界一周」なんて言うんじゃないぞ。世界はそんなに狭いのかと、ひとこと蛇足を言いたい気分。

アメリカ留学への道』(福田邦彦)。アメリカに行きたかったのではない。日本を出たかったのだ。

脱にっぽんガイド』(牛島秀彦)

若い人の海外旅行』(紅山雪夫)。役に立ったという記憶はない。こういうガイドよりも、エッセイのほうが影響力が強い。

秘境探検』(青柳真知子他)

インドで考えたこと』(堀田善衛)。この本の記憶はほとんどないが、ずっと後になってスペイン現代史を調べるようになって、堀田の本を何冊も読むようになる。

インドで暮らす』(石田保昭)。この本の記憶もない。

インド史』(山本達郎)。高校を卒業したら、カネを作ってインドに行く計画だった。

アフガニスタンの農村から』(大野盛雄)

東京いい店うまい店』(文藝春秋編)。国会図書館の蔵書では、1974年版がもっとも古いが、私は71年に買っているのだから、その本じゃない。私が買ったのは、多分1967年の輝かしき初版。次の本と同じように、東京の外国料理店資料として買った(もちろん、古本屋で二束三文だったから買ったのだが)。

日本で味わえる世界の味』(保育社)。高校時代から、旅と食文化の二本立てだった。のちに『異国憧憬』(2003)を書くときに、「日本人の外国料理体験」の資料として、この時代に買った本が役に立った。だから、「断捨離」は過去を学ばない者の生き方なのだ。

何でも見てやろう』(小田実)。69年に買っていたのだと、たった今知った。買ったが「理屈っぽいな」と思って、読まなかったのだと思う。この本のすばらしさに気がつくのは、ずっと後になってからだ。

北米体験再考』(鶴見俊輔)。次の、キング牧師の本とも関連し、アメリカ現代史の参考書。

自由への大いなる歩み』(M.L.キング)。1959年に出版されたこの岩波新書を読んだ71年には、キング牧師はすでに暗殺されていた(1968年)。この新書のあとすぐに、マルカムXやブラックパンサーなどの本を買うようになる。R&Bやジャズへの興味が、黒人から見たアメリカ史をまとめて読んでみようという動機だった。猿谷要吉田ルイ子なども読んでいたが、不思議に「アメリカに行こう」とは思わなかった。アメリカ黒人史の資料を読んでいて興味を持ったひとりがマーカス・ガーベイなのだが、資料が少なくたいしたことはわからなかった。数年後にレゲエ関連で取り上げられるようになり驚いた。それから40年以上たち、なんと日本版ウィキペディアに取り上げられるほど日本でも知名度が高くなったようだ。そして、やっと本格的な研究書が世に出たと朝日新聞(2021,8,21)の読書欄で知った。『マーカス・ガーヴェイと「想像の帝国」』(荒木圭子)だ。黒龍会内田良平らが関心を持っていたと、生井英考の紹介文で書いている。アメリカの「Back to Africa」運動と日本のアジア主義者がつながろうとしていたのだ。

 以上が半世紀前の図書購入リストの一部だ。このころは、買った本はほとんど読んでいた。買った本のほかに、図書室で借りて読んだ本も多いのだが、そのリストは作っていない。

 このまま1年に買った本のなかから10冊紹介するとしても、あと50年分あるから500冊にもなる。1年に20冊ずつなら、1000冊だ。2年で1話分でも、25話も続くことになる。それはあまり楽しい作業とは思えないので、この辺でやめておく。

 次回が最終回