1624話 「ハードルを上げる」というおかしな日本語

 多分、それほど古い言い方ではないだろう。ここ10年以内かもしれない。テレビなどでしばしば「ハードルを上げる」という言い方を耳にするのだが、これは変だ。陸上競技のハードルは、もっとも低いのは中学女子の762ミリで、もっとも高いのは一般男子の1067ミリだ。予選では高さ800ミリだったが、決勝では1100ミリに上げるということはない。高跳びはないのだから、競技の進行によってハードルの高さが変わることはない。だから、「バーを上げる」なら正しいのだが、そう表現した人を知らない。「ハードルが高い」も、いきなり高くなるわけではないから、やはり変な言い方だ。「敷居が高い」の誤用で使う場合ももちろん不適切だ。

 話はちょっとそれるが、その昔、大酒を飲むことを「メートルを上げる」と言っていた。なんだいこれはと思い調べてみると、「メートル」というのは、ガスや電気のメーター(自動計量器)のことで、酒量が増える→メーターの表示が上がるということらしい。そういえば、数十年前までよく使われていたのが、「おだを上げる」いう言葉だ。「おだ」とは「お題目」のことらしく、「酔って気炎を上げる」という意味で、またしても「上げる」だ。「メートル」は「おだ」や「気炎」との関連で「上げる」という表現になったのかもしれない。現在でもよく使う「上げる」は、「ギアを上げる」があり、自動車のマニュアル運転経験者世代にはわかる表現だろう。

 さて、話をもどして、「ハードルを上げる」だ。ハードル(hurdle)とは、垣根、障害といった意味があり、それが陸上競技の「障害走」となった。だから、英語では、”a high hurdle”(高い障害)という言い方はするらしい。「上げる」のは”set a high bar”のように「バーを高くする」であって、ハードルではない。

 さらに調べると、”raise the hurdle”という表現があるが、これは「ハードルを上げる」ではなく「難易度を上げる」といった意味で、陸上競技のハードルではなく、本来の意味の「障害」という意味だ。テレビタレントたちが使う「ハードルが高い」「ハードルを上げる」が、英語表現の直訳なのかどうか、わからない。

 以上のようなことを調べているなかで出会ったサイトが、「間違え易い日本語」というものだ。誰が書いているのか明示していないのだが、URLから追跡すると、京都大学数理解析研究所に行きあたるのだが、この研究所の活動と「間違え易い日本語」との関係がまったくわからないが、このサイトを読み進む。

 出版関係者なら当然知っているべき基礎知識レベルのものもあるが、「へえ、そうなの?」と初めて知ることもあった。

 「血税」のもともとの意味は、「兵役」だったというのを知り、確認の調査をしているうちに、中学の歴史教科書の脚注にそういう記述があったような気がしてきた。

号泣
×激しく泣く
○大声で泣く

としているが、直立不動で大声で泣くのが「号泣」で、体をゆすり動かしたら「号泣」じゃないと受け取れる解説は、「どうも違うなあ」という気がする。

牛車
×ぎゅうしゃ
○ぎっしゃ

としているが、平安貴族などが乗っていた乗り物は「ぎっしゃ」だが、例えばアフリカや中南米で馬車のように牛が引く車は「ぎゅうしゃ」だろう。

×アタッシュケース

アタッシェケース

フランス語Attache(アクセント記号省略) 語源だから「アタッシェ」が正しいのだが、もはや慣用で「アタッシュでも可」だろう。同じような例が、窓枠などの「サッシ」だろう。これは英語のSASHだから「サッシュ」が正しい。だから、業界の団体は、1947年に「任意団体日本サッシュ協会」が発足したのだが、言いにくかったのか、1959年に「社団法人日本サッシ協会」に改称している。だから、建築業界では「サッシ」が正しいということになっている。

『間違え易い日本語』の記述をいちいち取り上げるとキリがないので、ここまで。あとは皆さま、サイトでお楽しみください。