1632話 滞在許可 その1

 

 外国で長期間生活している人のビザって、どうなっているんだろうか。国籍などいろいろな事情を考えると面倒なので、日本人限定で考える。現地企業や日本企業の社員ということで、正式に就労ビザを得ている人は、わかる。研究者なども、わかる。日本料理店経営といった人もわかる。怪しいのは、観光ガイドとか「アメリカで音楽の勉強をしている」とか「ミュージカルの勉強をしている」といった人たちだ。学生ビザだと、国によって違いがあるが、仕事ができないし、ユニオン(組合)に加入していないと、正式な仕事はできない。

 アメリカ在住日本人なら、坂本龍一渡辺直美クラスなら、有能な弁護士を雇って、正々堂々と就労できる滞在ビザが取れるだろうが、普通なら綾部裕二クラスに長期滞在許可がでるのは疑問だし、ユニオンにも加盟できないだろうし、どういう手を使っているのだろう・・・というような疑問は、どこかの国で長期滞在した経験のある人なら、すぐに感じる疑問だろう。

 ドイツ人音楽家と結婚してオーストリアで暮らしている中谷美紀は、出演したテレビ番組で「結婚したのは配偶者ビザを得るためでした」と話していた。法律上の結婚を特に望んでいなかったようで、「いっしょに暮している」というだけでよかったので、「留学生ビザとかいろいろ考えたんですが、結局、結婚するのが一番便利で・・」と話していた。ドイツやオーストリアや日本を出入りして、ヨーロッパに好きなだけ滞在できるビザは、配偶者ビザが最良だろう。

 銀座の店でコック見習いをやっていたとき、外国語学校の夜間コースでスペイン語を学んでいたことがある。その期間に、いわゆるオープンスクールというものがあり、誰でも好きな言語の授業に出席できた。理由は覚えていないが、私は英語のクラスに行ってみた。考えてみれば当たり前だったのか、英語の会話が成立する生徒は私だけで、授業に退屈している気配の若い教師は、私にインタビューするという感じの授業をした。私がコックだということを知った教師は、「店に外国人はいる?」と聞き、「料理長は台湾人です」と答えると、「料理人は、ビザを取りやすいんだよなあ」といいつつ、ひとりごとのように、日本のビザの話をした。おそらく、この若い教師は観光ビザで日本に入った旅行者で、滞在期限ぎりぎりまで日本で働き、一度出国し、また日本に戻ってくるというアルバイト教師だろうと推察した。

 横浜から香港へのソビエト船に乗ったことがあるのだが、西洋人の一団が皆日本で働いている英語教師で、香港で日本のビザを取って、同じ船で日本に戻る人たちだった。格安航空券などほとんどなかった時代は、この船が外国に行く安いルートだった。韓国便のフェリーはもっと安いが、東京から下関に行く交通費が高かったから、横浜から船に乗る方が合計額では安かったのだ。

 香港とビザの話を書いていて今思い出したことがある。香港でしばらく過ごして、香港の雑学本を書こうかと思ったことがある。山口文憲氏が『香港 旅の雑学ノート』を書く前の話だ。東京で香港のビザを取りたいと思い、英国総領事館に手続きを問い合わせると、恐ろしくなるほどの書類が必要とわかり、ビザはあきらめた。結局、長期滞在をしたことがない。ビザなし滞在期限の7日間とそれを延長して、さらに7日間の滞在許可を得ただけだ。

 今はコロナに関係なく、香港に長期滞在したいとはもう思わないが、現在のビザ事情を調べると、観光ビザというものはどうやらないらしく、日本国籍者は観光目的なら90日間以内はビザなしで滞在できるというのが原則らしいが、実際に何日の滞在許可になるかは出入国係官の判断しだいらしい。

 このあと、数回にわたり、長期滞在とビザの話を書く。