1677話 「旅行人編集長のーと」に触発されて、若者の旅行史を少し その25

 戦後旅券抄史 3

 

 1970年の「一般旅券発給申請書」に記入しなければいけない項目は、現在とはまったく違う。大時代がかっている。こうだ。驚くぞ!

 氏名のあと、性別、既婚か未婚の別、身長、「外見上の顕著な特徴(ない場合は記入不要)」、本籍地、そして、国名リストから、旅行地を選んで〇をつける。一次旅券は、前回書いたように、訪問国名をパスポートに記入される。申請書に「イギリス」と書いていたら、それ以外の国には行けない。だから、一次旅券なら百歩譲って訪問国を書く意味はあっても、数次ならこの申請書に訪問国名書く意味がない。

 「渡航目的」という欄も意味がないのに、書かせる。その目的を次から選ばなければいけない。

 営業、観光、公演、役務提供、赴任、留学、研究、研修、家族との同行、政府計画移住、国際結婚による移住、養子縁組による移住、永住権を有する国への再渡航、近親訪問、知人訪問、一時訪問、視察、会議出席、航空機乗務

 こういう事を記入させるというのは、日本人の旅行調査である。「旅の目的なんざ、勝手だろ」という意見は、日本政府は受け付けない。旅行目的以上に噴飯ものは、「職業」欄に関することで、この話はアジア雑語林話1013話に書いた。いかにも役人が作った書類だとわかる内容で、「国会議員」が国民の序列第1位で、以下「地方議員、国家公務員、地方公務員」という「エライ人順」が明文化されている。以下に、採録する。日本政府を笑ってください。

付録 『実用世界旅行』(杉浦康・城厚司、山と渓谷社、1970)に、当時の「一般旅券発給申請書」のコピーがそのまま載っていて、興味深い欄を見つけた。現在は、申請書に職業を書く必要がないのだが、当時は申請者の職業を書く欄があった。基本的には、職業欄にある職業とその番号を○で囲む。もし、ここに載っていない職業の場合は、別の欄に具体的に書き入れるようになっている。さて、興味深いのは、その職業欄にあらかじめ載っている職業だ。00から数字が打ってあるのだが、その数字は省略して、上から順に、職業を書き出してみる。最初の方は、明らかに、政府が考える「偉い人順」だ。あるいは、この時代に海外旅行をしている人たちといってもいい。「農業従事者」というのは、農家のことで、彼らの旅行を「ノーキョー(農協)ツアー」と都会人が嘲笑した。農家が大金を持っていたのは、大都市郊外で、団地をはじめ新興住宅地の開発で、山野、雑木林、農地を売って大金を得ていたからだろう。こういう職業リストを見るだけで、時代を読むことができる。じっくりと解読していただきたい。
 国会議員、地方議員、国家公務員、地方公務員、公共事業体役(職)員、会社社長、会社役員、会社社員、会社嘱託、農業従事者、漁業従事者、技師、技能者、船(機)長、船舶(航空機)高級乗組員、船舶(航空機)乗組員、販売業従事者、個人経営者、サービス業従事者、団体役員、団体職員、労働組合役員、教授、助教授、講師、研究員、教員、医師、芸術家、俳優、芸能家、法律家、報道関係者、写真家、著述業、宗教家、職業的選手、主婦、学生、無職

 1973年の旅券発給申請書の話は次回に続く。