2021年にNHKBSで放送したドラマ『白い濁流』を見た。まるで大映ドラマのようなおおげさな音楽と話の展開で、NHKの放送なのだが調べてみれば、制作はフジテレビの子会社FCC(フジクリエイティブコーポレーション)だとわかった。私が疑問に思ったのは京都が舞台でありながら、京都ことばをしゃべったのは芸子の数秒のセリフだけだった。興味深いことに、同じFCC制作のWOWOWドラマ「いりびと~異邦人~」(こちらは、よりいっそう大映ドラマ的で、それはまあひどい。原田マハ原作の絵画ドラマということで見たのだが、どろどろの韓国ドラマ以上で、それはもうお話にならない・・・)も京都が舞台だが、関西出身という設定にしている出演者には、なるべく関西弁をしゃべらそうとしている。京都が舞台ということで、ことばが気になってちょっと見た「科捜研の女」でも、誰も京都弁をしゃべっていないのが不思議だったのを思い出した。今、「科捜研の女 京都弁」で検索すると、「ヤフー知恵袋」で毎度おなじみの質問だとわかった。やはり変だと思う人が多いのだ。
NHKの長期連続ドラマだと、方言指導がつき、俳優は徹底的にしごかれるのだが、意識していわば「インチキ」方言にする場合もある。その土地の老人たちがしゃべるそのままの会話では、全国の視聴者が理解できないから、少し訛りのある共通語風にしゃべることもあるそうで、そうすると地元から「あの話し方はなんだ!」と抗議を受けるが、それは致し方ない処置なのだと番組関係者が語っていたが、私も理解できる。
ことばに深い関心がある私は、ドラマにもよるが、できるだけリアリズムでやってほしいと思う。福岡市を舞台にしたドラマなら、福岡市民が見て「そう、ああいう会話です」と納得するセリフ回しでやってほしい。考えてみれば、福岡の会社で働いている人が全員福岡市の出身であるはずもなく、東京に本社がある会社の福岡支社なら、全国から転勤者がいても不思議ではないから、「出演者全員が福岡のことばを話せ」という意味ではない。そういうことも含めたリアリズムである。ことばが主人公のドラマを見てみたい。
そのお手本は、井上ひさし原作のドラマ『国語元年』(NHK、1985)で、たしかな記憶ではないが、方言には一部字幕がついたような気がする。それでいいし、それがいい。その地方の、ありのままの会話がドラマになっていれば、私は満足なのだ。
東京から出かけたレポーターのインタビューに地元の人が答える場合、なるべく共通語でしゃべろうとするから、あまりおもしろくない。ローカル局の番組、聞き手も地元出身者だと会話が弾む。これがローカル番組を見る楽しみのひとつだ。
「聞き手のことば」という点でいつも気になるのは、「秘密のケンミンshow」だ。改名した「秘密のケンミンshow極」も同じだ。関東では日本テレビで放送しているが、制作は読売テレビだ。この番組の鉄板ネタで「変な大阪」というシリーズがある。「大阪がいかに変か」というテーマを、「変だとは思っていない」大阪人に街頭インタビューをして、話題を深めていくという構成だ。食習慣であったり人間関係であったり、もろもろの「変なこと」について質問している男たちが、関西訛りなのだ。「へえ、そうなんですか」とか「そんな料理、食べたことないです」と、「そんな大阪のことは、私知りません」というフリをしているディレクターだと思われる男が、関西訛りの共通語だから、毎度ムズムズしている。