関西弁全開の映画はいくつもあるが、「ガキ帝国」(1981)などは監督が井筒和幸だから、なまぬるい関西弁しかしゃべれない役者は使っていない(と思う)。関西でロケした映画に「阪急電車 片道15分の奇跡」(2011)は、おもしろかったという記憶がある。出演者は、戸田恵梨香(神戸市)、南果歩(尼崎市)、谷村美月(堺市)、有村架純(伊丹市)、芦田愛菜(西宮市)、相武紗季(宝塚市)など関西弁ネイティブの役者が集まっているのだが、最大にして唯一の欠点が、変な関西弁アクセントをしゃべる宮本信子だ。宮本を外せないなら、徹底的に関西アクセントを叩き込むべきだろうし、そうしないなら関西出身ではないという設定にすればよかったのだ。阪急電車の乗り合わせた客のエピソードを集めた映画なのだが、現実の阪神電車の乗客全員が関西出身というわけはないのだから、どこの地方の訛りがあってもよかったのだ。
映画の舞台は関西だが、主役クラスの俳優が変な関西弁をしゃべるという例は、関西の観客・視聴者にとっては数えきれないほどあるだろうが、テレビで何度も関西人の不満を聞いたのが、「極道の妻たち」の岩下志麻だ。「あの気持ち悪い関西アクセントはなんだ!」という不満だ。アイフルのCMを見たとき、大地真央(淡路島出身)が岩下のパロディーをやっているのだろうと感じたが、真相は知らない。ちなみに、あのアイフルのCMは、レディー・ガガや瀬戸内寂聴などのパロディーだと思われ、謎解きをするのは楽しい。
関西出身の俳優が映画やテレビドラマで関西弁を使っているのは不思議ではないが、インタビューやトーク番組では共通語を使うという暗黙の了解があったように思う。芸人は多少関西訛りでもいいというくらいだったが、フリートークで全面的に関西訛りを武器にしたのが明石家さんまだろう。ただし、関西弁ではなく関西訛りだ。大阪ローカルの番組では関西弁を使っても、全国放送では共通語を関西訛りに加工して、「それ、ちゃう」とか「ホンマか?」といった簡単な単語をあしらう「全国放送用関西弁」だ。
芸人は関西出身を売り物にするからそれでいいのだが、俳優は演技以外の場では共通語を使うという了解を無視したと最初に気がついたのは、堤真一だった。これはもちろん「私の記憶では」と言うだけの話だ。さんまが相手をする番組で、ゲストが関西弁になるというようなことはあるが、相手が誰であれ関西訛りでしゃべる俳優は、堤真一の次と言えば訛りは薄いが佐々木蔵之介、濃厚な訛りの國村準がいて、古田新太や・・・と、何人もの顔が浮かぶが、女優では江口のりこ以外思い浮かばない。
映画とお国訛りというテーマで考えていて思い出したのは、熊本出身の笠智衆(1904~1993)がいる。終生公私とも熊本訛りのままで生き、それが俳優としての持ち味となった稀有な例だと思う。