1691話 タイのちょっとうまいもの その5

 コショウとトウガラシ

 

 pepperという語は、ちょっと面倒だ。多くの日本人はコショウのことだと理解するだろうが、トウガラシもこの語で呼ぶことがある。明確に区別したいときは、black pepperとか、white pepperという語でコショウを表し、red pepperやgreen pepperでトウガラシを表す。green pepperは緑のトウガラシやピーマンなどをさすのだが、未熟のコショウも緑だからややこしくなる。だから、トウガラシであるとはっきりさせたいときは、chili pepperという。

 日本でも、九州では同様の混乱がある。柚子胡椒を初めて知った非九州人は、柚子とコショウを使った調味料だろうと想像するのだが、九州の、特に北部ではコショウはトウガラシのことだ。しかし、「ステーキに塩コショウ」というときのコショウは、多くの日本人同様コショウのことだからややこしい。うどんにかける「コショウ」はトウガラシ、ラーメンにかける「コショウ」はコショウだというのだが。

 タイでも同じような混乱がある。その昔、タイにはインドから入ったプリックという香辛料があった。そのあとにトウガラシが入ってきて、これもプリックと呼んだが、混乱するので、今までのプリックをプリック・タイ(タイのプリック)と呼んだ。これがコショウだ。

 私が好きなタイの食べ物は、生の粒コショウだ。プリック・タイ・メットというと粒コショウのことだが、乾燥した粒コショウもあるから、生の緑の粒コショウはプリック・タイ・オーンという。ヤング・コーンになぞらえて、ヤング・ペッパーという意味だ。

 この緑コショウは、おもに魚介料理に使うことが多い。あらかじめ作った料理を用意して客を待つカフェテリア方式の食堂にも、この緑の粒コショウを使った料理はあるが、ナマズを使ったものが多く、この料理そのものは、じつは私の好みではない。興味深いことに、粉末コショウをよく使うのは中国系料理で、生の粒コショウはタイ料理に使う。トウガラシは粉末のものはタイ料理、あまり辛くない生トウガラシは一部中国系料理でも使うといった違いがある。

 ある日、日本でちりめん山椒の佃煮を食べて、山椒のうまさに唸り、突然、タイの粒トウガラシを思い出した。実山椒と生の粒コショウは、さわやかな辛さが似ている。その昔、タイの食材を扱う日本の店には、この粒コショウはなく、後年アマゾンで探したが、扱っていない。タイに足が向かわなくなって久しいので、もう何年も粒コショウを口にしていない。

 ネット情報を探っていたら、日本のタイフェスティバルで生の粒コショウを売っていたという話が出ていたが、正式に輸入されたものかどうかは知らない。