1705話 東南アジアと日本の若い旅行者 その6

 個人旅行用ガイドブック

 

 ギリシャから日本までの陸路旅ガイド『アジアを歩く』(深井聰男、山と渓谷社)の初版は1974年で、78年に第2版が出ている。日本初の本格的個人旅行ガイドだが、東南アジアや東アジアに関する記述は少ない。

 イギリスからオーストラリアに移住した夫婦が、lonely planetという出版社を作り、旅行ガイドブック”Across Asia on the Cheap”を出版したのは1973年だった。これはいわば私家版のようなもので、広く販売はされなかったようだ。出版社の体制を整え、本格的に活動を始め、最初に出版したのが1975年の”South-East Asia on a Shoestring”だ。この本の1977年発行の版を買ったのが香港・九龍公園の南にあった辰衝図書有限公司Swindon Book、Lock Rd.)だった。黄色に赤い文字の表紙の本が積んであったのを今でもよく覚えている。大好きな本屋で、香港の本はほとんどここで買った。

 ”South・・“の1977年版は236ページの本だ。のちにネット古書店で買った1982年版はぐっと厚くなり432ページになっている。書誌学的なことを書いておくと、”South-“の1977年版の記述は、”This edition  first published October 1977”になっていて、あたかも1977年が初版のようだ。1982年版は、”First published 1975”、”This edition August 1982”となっている。

 1977年版に載っている書籍広告は、“Nepal”、“Europe”、“Asia”、“Australia”、“Trekking in the Himalayas”の5冊。1982年版には多くの広告がでているので、参考までにアジアガイドだけ挙げておく。

Burma

”Hong Kong”

”India”

“Israel & the Occupied Territories”

”Japan”

Kashmir ,Ladakh & Zanskar”

”Kathmandu & the Kingdom of Nepal”

”Korea & Taiwan”

”Malaysia ,Singapore & Brunei”

”North-East Asia on a shoestring”

“Pakistan”

“The Philippines”

“Sri Lanka”

“Trekking in the Himalayas”

“Thailand”

“West Asia on a shoestring”

“South-East Asia on a shoestring”

 ちょっと注をつけておく。”India”は『地球の歩き方 インド』と同じ1981年が初版。このことでもわかるように、『地球の歩き方』の第3弾がインドというのは、当時の若者の旅行意識を考えれば納得のいく出版だったのだ。“Thailand”という書名を見ると、現在の厚い本を思い浮かべるかもしれないが、手元にある1984年版の、正式名”Thailand a travel survival kit”は無駄に紙が厚い200ページほどのガイドだ。当時の欧米の若者にとっても、タイはまだたいした旅行先ではまだなかったということだ。バンコクのカオサン地区に旅行者が集まってくるのは1980年代末だ。1990年代なかばの『地球の歩き方 タイ』を見ると、カオサンの扱いはまだ少ない。多くの日本人もカオサンをめざすようになるのは1990年代後半以降だ。