1740話 神田神保町散歩 下

  神保町の東京堂書店は、立花隆など、小説家やライターなどのエッセイによく出てくる書店で、私の好みにも合う本が多い。出版関係書とか出版業界内幕本が揃っているというわけではない。おそらく、タレント本とか自己啓発本とか健康とか栄養といった売れ筋ベストセラーが全面に出ていなくて、いわゆるクロウト好みの品揃えが執筆者や編集者たちにはうれしいのだろう。

 上の階にあがると、台湾本コーナーがあった。私が読みたいと思う本はすでにリストアップしてあるから、意外な掘り出し物はなかったが、韓国やタイの関連書と比べて、私の好みで言えば「豊穣」と言いたくなるほどおもしろそうな本が多い。韓国の小説は多く出版されているようだが、私は基本的に小説を読まないので、韓国や台湾の小説の評価はできない。

 1階の文庫の棚には、文庫の旅行書コーナーがあり、何冊か買った。以前は食のコーナーだった。1階でしばらく遊んでから、会計カウンターに本を持って行った。もらったQUOカードは図書カードのように使えるようで、三省堂ではなくここで使う予定だったが、「当店では、このカードは使えないので・・・」とオダギリ・ジョーのようなことを言い(わかりますか?)、しかたなく三省堂に戻って買いなおすことにした。

 途中、中国関連書店東方書店に寄って、台湾本を物色したが数的にも少ない。昔は、台湾本も結構あったのに。やはり、誠品生活日本橋に行かないとダメか。

 東京堂で買い損ねた本を三省堂で買おうとして、困った。出版社や書名を覚えていないのだ。東京堂書店で目についた本を次々にカゴに入れただけなので、記憶が薄い。文庫の平台をチェックしても、新刊なのに見つからない。東京堂ならすぐに欲しい本が見つかったな。三省堂では本探しにえらく苦労したのに、帰宅してから買い忘れた本があったことに気がついた。これもいつものことだ。三省堂は旅行書のチェックには使うが、いわゆるガイドブックが多く、食文化本も含めて買いたくなるような本はあまりない。

 食い物の話を最後に。家を出るときから、なぜか「昼は、天丼だな」という胃袋になっていた。安くてうまいのが「天丼てんや」で、神保町に行く前に途中の乗換駅で降りて、食べようかと思ったが昼時になってしまうので、避けた。その結果、昼には少々遅い時刻に神保町に着き、めし処を探した。たまたま「さぼーる」の前を通ったら長蛇の列ができていて、「ここも閉店直前か?」といぶかしく思ったが、テレビで度々紹介されるので、行列しないと入れない喫茶店になってしまったようだ。

 のどが渇いたので、サンドイッチにコーヒーの昼飯にしようかとも思たのだが、胃袋も脳も「天丼」になったままで、ちょうどいい機会だから、古くからやっている天ぷら屋に、15分ほど店頭で待って入ってみた。長くやっていれば、それなりに高い評価を受けてきたのだろうと思ったのだが、残念。エビがインゲンほどに細い。しかも、卑猥な描写をしたくなるほどに白く細くふにゃふにゃなのだ。箸でつまんでも起立しない。関西の天ぷらのように色が薄く、うまければそれでいいのだが、弱火で揚げたような天ぷらで、タレが吸い物のように薄い。飯が柔らかすぎる。「ああ、てんやに行けばよかった」と思いつつ天丼を食う寂しさよ。この文章を書いている今も、「ああ、てんやにすればよかった!!!」と悔やんでいる。まずい物を食うと、あとあとまで落ち込む。