トラベラーズ・チェック(TC)といっても、旅行用小切手といっても、若い人には何のことかわからないだろうが、サインをすれば現金のように使える小切手だ。クレジットカードも持てない旅行者や、持っていてもカードが使えるような宿には泊まらないという個人旅行者たちは、現金とTCを持って旅をしていた。そのTCが2010年代に次々に発行を停止した。
現在は、欧米の旅行なら、国によっての違いはあるが、基本的にはクレジットカードやプリペイドカードなどと多少の現金があればおおむね間に合うと思う。イタリアでの体験だが、鉄道の切符は、クレジットカードを使って自動券売機で買うのが普通で、職員から現金で買うと手数料分が上乗せされる。
アジアやアフリカ&ラテンアメリカなどでは、国にもよるが現金の方が便利なことが多い。中国はVISAなどは使えないし、現金も使いにくくなり(世界的に有名なにせ札大量生産国だから)、中国のクレジットカードやプリペードカードを用意するとかいろいろ面倒なようだが、中国に行く気はないから、私にはどーでもいい。
しばしばインドに出かける某氏に、「旅行費用はどういうかたちで持っていくの?」と聞いてみた。
「ドルが安い時にまとめて両替したから、出かけるときに、そこから必要と思うだけ現金を持っていくだけさ」
私の脳内では、某氏の自宅金庫に、菓子箱に入った各種現金がたっぷりあり、そこから100ドル札を「まあ、こんなもんかな」とひと束つかみ、10ドルと1ドル札を適当に混ぜて袋に入れている姿が浮かぶ。インド亜大陸でも金持ち観光客の旅をするなら、クレジットカードとチップ用小銭があればいいだろうが、田舎街の安宿を巡る旅なら、やはり現金がいちばんだろう。
私は、「念のため」のクレジットカードは持っていくが、基本的には現金派だ。タイに住んでいたころは、銀行口座を作るのは簡単だったから、交換レートがいい両替所で日本円をまとめてバーツに両替して、口座に入金した。カネが必要になれば、ATMで引き出した。1990年代は高金利だったので、カネをかなり多めに入金したままにして帰国し、翌年タイに戻ってくると、結構な利子がついていた。私には縁のないことだが、かなりの高額を定期預金にすれば、10%以上の利子がついたという時代だ。
ヨーロッパ旅行の場合は試行錯誤をしたが、面倒がないので、ユーロ圏に行く場合なら、成田でまとめてユーロに両替している。クレジットカードは緊急事態用だから、普段は使わない。バルト三国の旅でも、緊急事態はなかったし、いつものように買い物はしなかったので、多めに両替しておいたユーロは残った。「また、来年」と思っていたから、帰国しても日本円への再両替はしなかったから、ユーロ札も私も、コロナのせいで日本で蟄居謹慎生活をすることになった。
今日のニュース(6月9日)で、米ドルは135円、ユーロが140円を超えたと報じている。手元のユーロは、もちろん現在よりもずっと安く買ったから、差額を計算すると、今売れば1万円ほど儲けたことになる。
某氏の金庫に積まれている米ドルの皮算用をすると、2019年に2回か3回分の旅行費用として1万ドルを両替したとする。当時のレートなら105万円くらいだ。コロナ禍で旅行ができないから、金庫のドルには手をつけていない。1万ドルであることは変わりがないが、日本円にすれば135万円になっている。再両替すれば30万円ほどの儲けになる。私は、また旅に出るから、少額とは言え日本円に再両替する気はない。おそらく、某氏も同じだろう
外貨預金をしようかどうか迷っていた人は、さぞかし皮算用を繰り返しているにちがいない。